先行き不透明と言われる時代にも、未来を「予想」する本はあまたある。しかし、予想は外れるものだ。それより、理想の未来に向け、積極的に未来に参加することを勧めるのが、本書『フューチャリストの「自分の未来」を変える授業』だ。
著者は、2016年まで半導体メーカーのインテルでフューチャリストとして働いていた。現在はフリーランスで、企業や組織が10年から15年先の未来を見通し、チャンスを探り、リスクに備え、最高の未来を実現できるよう手助けしているという。
本書は、著者がこれまで組織やテクノロジーの未来のためにしてきたことを、人間のため、すなわち個人のために役立てたいという思いから書かれた。自分の未来を変える手法を、実例を多く引きながら紹介する。
理想の未来を実現する具体的手法が「フューチャーキャスト」だ。3つのステップがある。
(1)未来の物語を創造する
(2)あなたを未来へ押し出す力(人・ツール・専門家)を見つける
(3)バックキャストを始める
(3)では、目指す未来に対して「半分」「少し先(半分の半分)」「次の月曜日」の目標を決める。
これで成功した一人が、美術学校を卒業したばかりのロックスだ。アニメーションの仕事をしたいが、地元ミネソタ州の建設会社で3Dモデリングなどに従事しており、将来を悲観していた。しかし、(1)「ピクサーでアニメーションの仕事をしたい」という未来を描き、(2)関連する仕事をしている人、プロのアニメーターの集まりや同業界で働きたい人のためのイベントなどのツール、アニメ―ション業界に転職した専門家を探し出してつながった。それらの助けを借りながら(3)目標を立て、着実に実行し、カリフォルニア州に引っ越して、ピクサーではないが小さなアニメーションスタジオに転職した。
「未来」は、シリコンバレーやワシントンD. C.など手の届かない場所でつくられているわけではなく、「ローカルだ」と著者はいう。つまりその人の未来は、その人のいる場所でつくられる。したがって、未来がもっとも実現しそうな場所へ自ら赴くことが重要なのだ。
取り上げられる中には、支払いが近づく家賃に悩む人、愛や結婚、人間関係に悩む人、死の恐怖におびえる人などもいる。著者が彼らに促すのは、自分の不安や恐怖を理解し、コントロールできるものとできないものを把握すること。そして、課題を小さく分割し、できることからこなすことだ。著者との対話を通じて、人々が未来に積極的になっていく様子に勇気づけられる。
本書の各所には、読者が自身の未来を思考し、行動に移すためのツールとして「未来について怖いことは?」「理想の未来を阻む壁は?」などの「クイック・クエスチョン」が設けられている。これらをこなしていけば、読了後には「理想のあなた」に向けて、はっきりとした道筋が見えているに違いない。