GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)を知っていても、ショッピファイ、リヴィアン、TSMCといった企業名を知っている人は少ないかもしれない。しかし、これらはすべて、世の中を変える可能性の高い企業だ。
本書『変貌する未来』は、このような世界の将来を左右しうるテクノロジー企業14社の分析記事、最高経営責任者(CEO)などへのインタビューを、オンライン雑誌「クーリエ・ジャポン」から選び収録したもの。宇宙、エンタメ、モビリティなど、幅広い分野における世界企業の戦略や見通しについて知ることができる。
現在、世界で最も重要な位置にいると紹介されるのが、台湾に本社を置く半導体メーカーTSMC(台湾積体電路製造)だ。同社はもともと、アップルなどの大手製品に組み込まれる半導体を製造する、人目につかない存在だった。しかし、スマホやスーパーコンピューターに欠かせない、最先端チップ製造では世界の90%のシェアを誇る。
特に、現在の最先端のものより動作速度が最大70%も速いとされる3ナノメートルのチップを作る技術を持つのは、今のところ同社と韓国のサムスン電子だけ。同社はこの高い技術力を維持するために、21年中に約3兆円という巨額の設備投資を行う予定だという。
もはや独り勝ち状態だが、このために、コロナの影響による一時的な減産が世界中に影響を与えた。また、台湾1か所に工場が集中し、災害や戦争などの影響を受けることが懸念されている。今後、各国に新工場を建設することで、リスク分散を狙うが、TSMCとしての世界への影響力は下がりそうにない、と本書は結ぶ。
日本では、ほとんどなじみがない企業も登場する。その代表格が米国のパランティアだ。投資家のピーター・ティールが2003年に立ち上げたデータ分析企業で、20年9月にニューヨーク証券取引所に上場。時価総額は約160億ドル(1.7兆円)となった。
膨大なデータを統合し、人間が見落としてしまうパターンを発見するソフトを販売するこの企業は、CIAも顧客だ。犯罪が起きやすい場所、犯罪を起こしやすい個人を特定し、犯罪を予測する「予測型警察活動」ソフトも警察に提供している。非常に強力なシステムであるがゆえ、プライバシーやセキュリティの点で強く非難もされている。一方、同社を評価するのは国連世界食糧計画だ。パンデミックの最中に食糧や物資を配分するのに、パランティアのデータ統合技術が活用されたという。今後も、この企業には相反する評価が続くだろう。
他にも、依然中国で大きな勢力を持つアリババや、CEOが交代したアマゾンなどの分析が掲載されている。すでに巨大な力を持っているこれらのテック企業がさらに力を強くするのか、新興勢力が伸びるのか、分水嶺の時代に差し掛かっていることが伝わってくる。本書をヒントに、世界の未来像を思い描いてみてほしい。