「こども食堂」には、どんなイメージがあるだろう。貧しい子がご飯を食べさせてもらうところ……と思っていると、少し違うようだ。親や高齢者も歓迎される「多世代交流の地域拠点」。「無縁社会」と言われる日本で、地域や人とつながり続ける場だ。2020年12月時点で全国に4,960箇所と、4年間で16倍に増えた。
本書は、こども食堂の現場ルポに加え、その役割や意味を論じている。著者の湯浅誠氏は、NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長で、東京大学先端科学技術研究センター特任教授。内閣官房社会的包摂推進室長、震災ボランティア連携室長などの経歴を持つ。
こども食堂には、大きく2つの役割がある。「地域交流拠点」と「子どもの貧困対策」だ。地域ににぎわいをつくると同時に、社会からこぼれてしまう子どもを減らす。
例えば、鹿児島市の「森の玉里子ども食堂」は、地域のコミュニティセンターで開催される。主宰者の園田愛美さんは小学校の教師だが、学校で気になる子どもがいても教師の立場でできることは限られていると感じ、こども食堂を始めた。会場では子どもたちが遊び回り、高齢者は手伝いや遊びに参加し、母親たちは雑談に興じる。今時の多くの子どもは、親や保育士、教師以外の大人と触れ合う機会が少ない。雑多な大人と接する機会は、社交性やコミュニケーション能力のもとになる。
セレブの街といわれる東京都・港区。広尾駅から徒歩10分の場所で「みなと子ども食堂」が開催された。集まる人たちの大半は困窮家庭ではないが、父親の帰りが遅く、母子2人で夕食をとる家庭などだ。子どもが私立に進学すると地域性は薄れ、ママ友もできにくい。こども食堂は、孤食やコミュニケーションに課題のある人たちにも必要とされる。
貧困問題対策において、こども食堂はイノベーションだと、著者はいう。経済的に「黄信号」の灯った家庭でも、心理的な壁から、いわゆる「相談窓口」には足を運びにくい。その点、こども食堂は誰にでも開かれているため、「青信号」のふりをして出かけて食事などの支援を得られる。これまで、誰にでも行けて、かつ「困っている人」に対する目の行き届いた場はなかったという。
コロナ禍によって、こども食堂は活動の見直しを迫られた。大勢が集まって一緒に食事をする場だけに、「3密」を回避しながらの開催は難しい。困っているかもしれない人に向け、弁当や食材の配布に形を変えて活動を継続するところは多い。ただし、費用の問題や食中毒の懸念もあり、今後の対策が問われている。
著者は、楽しく安全な地域を長く続けていこうとするこども食堂の考え方は、「SDGs(持続可能な開発目標)」に通じるとする。貧困や飢餓対策にとどまらず、人の成長や地域社会の活性化といった面でも、両者の目指すところは一致する。こども食堂の意味や可能性に、理解が進む一冊だ。