米EV(電気自動車)メーカーのテスラは昨夏、時価総額で自動車メーカー世界一となり話題を呼んだ。同社の株価はその後も急伸、いまやトヨタ自動車と独フォルクスワーゲンのそれを足してもかなわない。
日本車メーカーは、長く製造業の柱として日本経済を支えてきた。しかし近年、自動車産業はCASE(コネクテッド、自動化、シェアリング/サービス、電動化)による大転換期を迎えている。巨大テック企業に攻め込まれるのではないか、EVが普及しエンジンが不要になれば部品メーカーは仕事を失うのではないか、日本の自動車業界は「崩壊」するのではないか……。そんな言説が聞かれるようになった。
実際のところ、どうなのか。この問題に切り込むのが本書『日本車は生き残れるか』だ。著者の桑島浩彰氏はシリコンバレーを拠点とする企業戦略コンサルタントで、世界の自動車メーカーや部品メーカーの動向に明るい。川端由美氏はエンジニア出身で、自動車業界をフィールドとするジャーナリスト。
結論からいえば、日本の自動車産業は崩壊しないという。ただし、戦い方のルールは大きく変わる。要因の一つは、自動車のコネクテッド化だ。パソコンがネットにつながった際と同じことが起きるという。つまり、ハードウェアメーカーの勢力が衰え、グーグルやアマゾンのようにサービスを提供する企業が台頭する。
桑島氏によれば、新たに生まれるモビリティサービスの市場を、世界中の企業が狙っている。例えばフォードは、デトロイトに広大な土地を買収。数千人規模の関係者を周辺に転居させ、自動運転・EVの先端開発拠点にする計画という。狙うのはスマートシティのOS開発で、モビリティサービスのプラットフォームとして、競合を含む業界の関連企業に採用を働きかける。
また、GMの部品部門が2017年に独立して誕生したアプティブは、典型的モノづくり企業から、コネクテッドや自動運転を実現するためのソフトウェアやデータ解析などシステムアーキテクチャー全体を提供する企業に転換した。サービスに課金するビジネスモデルを築き、自らを「ティア0(0次下請け)」サプライヤーと位置付ける。
本書はほかにも、欧州や中国における自動車産業の新旧企業が入り乱れた最前線を紹介。それらを踏まえて川端氏は、トヨタ自動車、日産・三菱自動車、ホンダ、大手部品メーカーを軸に国内自動車産業の動向をまとめ、「モノづくり信仰」「垂直統合(系列)」「自前主義」など5つの弱みを指摘。社会的な課題を起点とする思考や水平分業のビジネスモデルに対応すれば、個々の技術に優れた日本車メーカーは、世界と戦う力が十分にあると力説する。
日本車メーカーは、従前の成功モデル、すなわちハードウェアありきの思考から脱さなければ競争力を失いかねない。製造業に求められるソフトウェアの時代の考え方を、本書は教えてくれる。