元旦に一年の計を立てた人も多いことと思う。年度末が見えてきた今、自分の目標や志を、改めて見つめ直したい人もいるのではないか。
本書『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』は、志を日々振り返るのにうってつけの一冊だ。仕事にも人生にも真剣に取り組んでいる人たちの心の糧となる――を理念とする雑誌『致知(ちち)』に掲載された、プロフェッショナルの言葉をまとめたもので、365人分、つまり1日1人ずつ、1年間にわたって読み進められるようになっている。登場するのは財界人からスポーツ選手、棋士、科学者など幅広い。仕事術のようなノウハウではなく、人生や仕事への姿勢、信条が語られている。
巻頭の1月1日は、京セラ名誉会長・稲盛和夫氏の言葉で始まる。技術者でもあった稲盛氏は、ものづくりの体感を「知恵の蔵(くら)」という言葉で説明している。新しいアイデアや製品のひらめきとは、偶然や自分の才能によるものではない。宇宙のどこかに、叡智(えいち)が蓄えられた場所があり、そこからインスピレーションを授かったのだと敬虔(けいけん)な気持ちを抱いているそうだ。同時に、エジソンが「人並み外れた」凄まじい研さんを重ねていたことにも触れ、知恵の蔵にアクセスするためには努力が大切なことを説く。
サッカー日本代表監督を務めた岡田武史氏も、成功のための努力の積み重ねを怠らない。10月1日のページで「運というものは誰にでも、どこにでも流れていて、(中略)僕は掴(つか)み損ねたくないから、そのために本当にベストを尽くしてきた」と打ち明けている。激闘を繰り広げた2010年の南アフリカW杯のときには、岡田氏は深夜3時まで試合のビデオを見て研究していたそうだ。
一流の人物はなぜ、努力することができるのだろうか。斜陽にあったガーデニング事業で家庭用除草剤をヒットさせ、事業を急成長させたアース製薬社長の川端克宜氏は、「人生に夢があるのではなく、夢が人生をつくるのだ」ということばを心の支えにしている。漫然と生きるのではなく、志を強く持つことが、生きる意義につながり、努力の源泉となるという意味だ。
強い志をつくるために、大阪桐蔭高校硬式野球部監督の西谷浩一氏は「日本一」という言葉を日々の練習の中で繰り返すという。「いまのキャッチボールで日本一になれるだろうか」「今のノックで日本一になれるだろうか」と。日本一と言ったから日本一になれるわけではないが、志を強く高くするからこそ、並みはずれた努力を続けることができる。
仕事は違えど一流の人が考え、心がけていることには共通点がある。謙虚さや努力を惜しまないこと、失敗しても前向きでエネルギッシュであることなどだ。各分野で業績を残した人が、そこに至るまでの道のりを振り返って生む言葉は力強い。近くに手本となるような上司や先輩がいなくとも、本書がメンターとなって背中を押してくれるだろう。