2000年の第一勧業、富士、日本興業の経営統合により発足したみずほ銀行。発足時より長年、みずほは「3行のシステム統合と刷新」を目標に掲げてきた。ところがこのシステム刷新プロジェクトは遅々として進まなかった。みずほ銀行の利用者なら、システム障害でATMの利用や送金が不能になった経験をお持ちの方も多いだろう。
みずほ銀行が新しい勘定系システム(預金、融資、振り込みなどの業務を支える情報システム)の開発を完了したのは2019年7月。費やした月日は実に19年間におよんだ。なぜこれほどの時間がかかったのか、そもそも大規模障害はなぜ起こったのか。それを明らかにするのが本書『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史』。みずほ銀行統合発表時から取材を続けた日経コンピュータが、開発プロジェクトの全貌を凝縮してレポートしている。
みずほの大規模障害の要因の1つはシステムの老朽化だ。みずほは1988年に第一勧銀で運用開始された勘定系システムSTEPSを20年以上にわたり使い続けていた。このSTEPSはインターネット普及以前の設計思想がベースにあり、口座ごとの処理上限値があった。このため2011年に東日本大震災の義援金が大量に振り込まれようとした際、大規模な障害が発生した。だが、みずほの担当社員は処理上限値の存在を知らなかったという。システムの内部構造がブラックボックス化していたのだ。
もうひとつ、システム刷新を妨げたのは経営陣の姿勢だ。本書には2011年の大規模障害に対する金融庁検査や特別調査委員会の報告も紹介されている。そこには、巨額投資と失敗リスクを避けんとする刷新の先送り、システム監査の形骸化など、大局的な危機対応能力の欠如が指摘されている。根本原因は経営陣のIT軽視と理解不足だったというのだ。
2011年の障害の後、金融庁からの業務改善命令を受けたみずほは、これらの根本原因をつぶし、企業として変わらざるを得なかった。さまざまな再発防止策に取り組むが、特筆すべきは横断的なIT人材の育成だ。みずほフィナンシャルグループCIO(最高情報責任者)を子会社のシステム担当役員も兼務するなど、全体を俯かんできるITマネジメント層を育てる枠組みを整えた。同時に、決済関連システムのデータフロー図をシステム部門とシステムを利用する現場部門とが共同作成することで、システムに関する組織知を大幅に向上。こうして育成されたIT人材が、千社以上のベンダーが参加する刷新プロジェクトで大きな力となったそうだ。2019年7月、ついに新しい勘定系システム「MINORI」の構築が完了した。幅広い部門と連携し、「IT人材の育成の仕組み」を抜本的に改革したことが、成否の分岐点だったと言えるだろう。
2025年には日本企業の基幹系システムの60%が運用開始後21年超になるという。老朽化したシステムの統合・刷新は、みずほだけの問題ではないという本書の主張はもっともだ。デジタル化が不可避な中、自社システムでどこまで対応可能なのか、いつ、どのように刷新するか、刷新のために何が必要なのか。こうした判断を、日本の企業は常に求められている。大きな失敗を経て、変化に対応できる人と組織づくりという“初心”に立ち戻ったみずほの歩みは、業種を問わず多くの企業の参考になる。