仕事でも日常生活においても、私たちは日々膨大な言葉のやり取りをしている。だからこそ、語彙力や表現力の不足にたびたびぶつかってしまう。話すこと、書くことにコンプレックスを抱いている人は年代問わず多いのではないだろうか。
本書『5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』は、タイトル通り、言葉を「思いつく」「まとめる」「伝える」ためのメソッドを伝えたもの。主にビジネス現場のアウトプット力を高めることを目的に、5日間で25のトレーニングをこなすという構成だ。著者のひきた よしあき氏は博報堂に勤め、政治、行政、大手企業などのスピーチ内容を書くスピーチライター。
本書は物語形式になっており、主人公は架空の食品会社の広報部に勤める若手社員・山崎大。山崎は言葉へのコンプレックスを抱えており、大学時代の恩師の手ほどきを受け、新作ヨーグルトの広報を通して「思いを言葉にする力」を身に付けていく。
1日から3日目までは語彙を増やしたり、文章を組み立てるトレーニングが続く。例えば山崎の「単語は思い浮かぶが文章にならない」という悩みに対しては、「目の前のものを実況中継する」レッスンが紹介されている。電車に乗ったら目に入る景色をアナウンサーのように言葉にしてみる。単語をつなぎ、文章にする力が鍛えられる。
4日目からは「伝わる表現力」を磨くステージに入る。ここではビジネス文書のルールにはないような意外なテクニックが紹介されている。一例が、「動詞をたくさん使う」だ。
山崎は新製品のヨーグルトの広報を任されたが、単に「食べて」では、消費者の心は動かない。そこで、「ママが鼻歌を歌ってる。いつもは眠たそうな娘までが機嫌がいい。このヨーグルトを食べてから、朝の景色が変わった。」と動詞を増やすように書くことを師からアドバイスされる。こうすることで、生き生きとした食卓の風景を映像のように伝えることができる。動詞をたくさん重ねれば、読み手の身心に働きかけ、じっさいの行動を促すことができるのだ。聞き手に動いてもらうプレゼンなどでとくに効力を発揮するテクニックだろう。
本書のメソッドは論理的でわかりやすい文書を書く段階、常識を破り自分らしい文書を作る段階、そして説得力をもち、共感される文章に仕上げる段階、とステップアップしていく。さながら武道で言う、守破離だ。堅苦しく考えがちなビジネスにおける表現も、実は幅広い工夫が可能であることを、本書は教えてくれる。
若手向きに平易に書かれているが、ビジネスを動かす中堅の方々にこそ読んでほしい。より自分らしい文書を書きたいときや、うまく言葉にできないで悩んでいる部下の指導にきっと役立つはずだ。