新年度になり、新しいチームで部下を持つ人も多いだろう。改めてリーダーシップについて考えたくなったら、少年時代に戻ってみるのがいいかもしれない。
本書『「一緒にいたい」と思われるリーダーになる。』(こだま ともこ訳)は、3人の少年の冒険を通してリーダーシップの本質を伝える1冊。世界中の著名人が行う講演を配信するTED動画で、4000万回以上再生された「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」の内容を凝縮した50の言葉と挿絵からなる。著者は組織コンサルタントであるサイモン・シネック氏。
いつものように公園にやってきた少年たち。そこにガキ大将がやってきて、気弱な少年がつくった砂の塔を壊してしまう。主人公の少年は友人を守るべく立ち上がる。どうすれば、理想の公園が手に入るのか。少年たちはいつもの公園を後にして、旅に出る決心をする。巨大な壁に行く手を阻まれ、犬に襲われ、川を流されたりしながら、ついに理想の公園にたどりつく――。
本書から印象的な言葉をいくつか紹介しよう。
「ひとりでは、何もできない。だから、ひとりでもできるというふりをしてはいけない。」(本書p.68より)
旅の途中、仲間に批判されたリーダーの少年はよそよそしく振る舞ってしまう。そんな時、急流を越えようとして、川に落ちる。仲間は何とか枝を差し伸べ、少年の手は迷いなくその心もとない木切れをつかむ。彼が自身の無力さを認め、同時に仲間への信頼をあらわした瞬間だ。
リーダーが仲間の誰よりも優秀である必要はない。リーダーシップにおいて重要なのは、仲間をいかに信頼するかなのだ。
「リーダーの本当の評価は、どのように仲間を奮い立たせたかで決まる。」(本書p.106より)
理想の公園にたどりつき、大きな遊具と穏やかな時間を楽しむリーダー。だが仲間の2人はここを出て、前の公園に戻ろうと言う。自分たちの夢は、理想の公園で遊ぶことではない。いつもの公園を、皆が楽しめる理想の公園に近づけることなのだ。
優れたリーダーは仲間に任せることができる。彼らが自分自身の力を信じ、奮い立つ機会をつくるのだ。そしていつでも自分を教師ではなく、生徒として捉えている。他者から学ぼうとする姿勢がリーダーシップを育むという。
「リーダーは、チームのみんなをスターにさせたいと願う。」(本書p.117より)
公園に戻った3人は、理想の公園で見た巨大な塔の遊具の製作に取りかかる。大勢の子どもたち、かつてのガキ大将も巻き込んで。やがてガキ大将から王冠を手渡されるリーダー。だが彼は、かつて砂の塔を壊された少年に王冠を譲る。実は理想の公園とは、彼が砂の塔で思い描いていたビジョンそのものだったのだ。
優れたリーダーのまなざしはいつも他者に注がれている。だからこそ共感を喚起し、誰もが彼の信念や情熱に魅了されるのだ。
少年の物語を通して語られるリーダーシップの神髄。部下とともに、リーダー自身をも奮い立たせてくれる1冊だ。