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今月の『押さえておきたい良書

『ビジネスマンの基礎知識としてのMBA入門2』-イノベーション&マネジメント編

入山章栄氏、内田和成氏などそうそうたる教授陣が解説する、わかりやすいイノベーション&マネジメント

『ビジネスマンの基礎知識としてのMBA入門2』
 -イノベーション&マネジメント編
淺羽 茂/入山 章栄/内田 和成/根来 龍之 著
日経BP社
2018/10 224p 1,600円(税別)

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 イノベーション、ダイバーシティ、コーポレートガバナンス。日々の仕事の中で耳にすることが多いこれらの言葉。実際にどう取り組むべきか、つかめないことも多いのではないだろうか。

 本書『ビジネスマンの基礎知識としてのMBA入門2』は、入山章栄氏や内田和成氏など、早稲田大学ビジネススクールの著名な教授陣が、企業革新の理論をわかりやすく解説。とくに自らのビジネスを「新しい見方」で捉え直し、変化を起こすためのヒントを中心に展開している。

 なお本書は、日経BP社と早稲田大学ビジネススクール(WBS)が開催した「日経ビジネス経営塾」の理論編の講義がベースとなっている。

イノベーションが起きないのは「知の探索」が足りないから

 今多くの経営者にとって、最重要課題の1つはイノベーションだ。イノベーションには、「知の探索」と「知の深化」が必要だとされる。「知の探索」とは本業から離れた、遠い知を探索して、既存の知と組み合わせること。「知の深化」は徹底して深掘りしていくことを指し、この探索と深化のバランスが取れている組織ほど、イノベーションを起こしやすいという。

 ところが知の探索は大変な割に短期的な成果が出ないことも多いため、組織は知の深化に傾きがちだという。なかなかイノベーションが生まれないときに重要なのは、知の探索を促すことだと著者は強調している。

 知の探索は「個人レベル」「戦略レベル」「組織レベル」「人脈レベル」と視点を分けることができるが、多くの人が取りかかりやすいのは「人脈レベル」ではないだろうか。「弱い結びつきの人脈」が、遠くの知をもたらす、というものだ。

 私も人脈レベルでの知の探索の一端に触れたことがある。新規事業として、あるマッチングサービスを企画していたときに、競合である社内SNSを研究するなど手を尽くしたものの、なかなかしっくりこなかった。そんな折、まったく業界の違うあるお客様との雑談中、「お節介な先輩や社内の情報屋のおじさん」という言葉から商品の立ち位置が明確になった。“弱いつながりである”お客様の知に触れることで、これまでとは違う方向性から、商品を考えることができたのだ。

ダイバーシティのもう1つの意味

 本書ではそうした「ただの知り合い」、弱い結びつきの人脈の重要性を説く。さらに、近頃よくいわれるダイバーシティ経営も、知の探索を組織レベルで実行するための大切な方法だという。

 ダイバーシティ経営というと、性別、国籍、年齢など目に見える属性が様々だというイメージを抱いてしまうが、それだけではない。「人の内面にある知見・能力などが組織内で多様化すること」を重視する「タスク型ダイバーシティ」もある。例えば、自動車メーカーの企画部門に金融やアパレル業界出身者が混じれば、おのずと遠くの知と近くの知を結び付けられる。つまり知の探索が進むのだ。

 本書は他にも、「エコシステム」「プラットフォーム」「ブランド」「ストラテジー」など、ビジネスの基本をなす概念やその実践手法を解きほぐしている。日々の業務を進める上で、大いにヒントになるだろう。

情報工場 エディター 窪田 美怜

情報工場 エディター 窪田 美怜

大阪府出身。青山学院大学教育人間科学部卒。人と組織に関するソリューションプランナーであり、最近新しいスニーカーを入手したにわかランナー。FM802を愛し、BBC Radio1のヘビーリスナーでもある。飲み込むように読書をし、好きな作家は辻村深月、山本周五郎。特に『子どもたちは夜と遊ぶ』『さぶ』はお気に入り。イースター島、マチュピチュ、ウユニ塩湖となぜか南米の世界遺産にひかれ、制覇済み。お風呂上りの時間を人生の大半にしたい。

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