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今月の『押さえておきたい良書

『2040年 自治体の未来はこう変わる!』

自治を取り戻せ! 生きる場としての地域社会を守る

『2040年 自治体の未来はこう変わる!』
今井 照 著
学陽書房
2018/09 184p 1,850円(税別)

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 毎週通っていた図書館が閉館する。ゴミ収集車が来ずに路上がゴミであふれかえる――これまで当たり前だったサービスが受けられなくなる、そんな日がやってくるかもしれない。日本創生会議の予測によると、2040年には日本の自治体数が半減する可能性がある。私たちの生きる場を支える自治体が今、消滅の危機にひんしているのだ。

 事態の深刻さに、総務省は「自治体戦略2040構想研究会」を発足。その報告書では、対策として自治体のスマート化を強調している。だが、本当にスマート化で地方自治は復活するのか。答えは否、とするのが本書『2040年 自治体の未来はこう変わる!』だ。押し付け的な標準化や共有化ではなく、自治体それぞれが本来のミッションに立ち戻ることこそ、状況を打開する鍵だと説く。

 著者は公益財団法人地方自治総合研究所の主任研究員。東京都教育庁や大田区役所、福島大学行政政策学類での勤務経験をもつ。

自治体はすでに膨大な業務量を抱えている

 自治体のミッションとは、人々が「今日と同じように明日も暮らせるようにする」ことだ。そのためには、多様な地域の個別事情に合わせて、打ち手を講じる必要がある。だが、総務省の報告書が提唱する標準化はかえって自治を地域から奪うと著者は言う。

 まず問題は、自治体の膨大な業務量だ。すでに国策の地方創生や補助金により、自治体は数百もの計画や報告が課せられており、マイナンバーなどの国の施策の業務負担も大きい。さらに住民の自治への参加意識の低下も深刻だ。市町村合併により地区の個別の要望と地方議会の隔たりは拡大した。そこに標準化の押し付けでは、ますます自治体は国策の執行機関に成り下がってしまう。

議会離れをどうくい止めるのか

 自治のためには、「自治体の政治」を代表する自治体議会の機能が重要だ。ところが現在、議員のなり手不足や投票率の低下、地域の事情と乖離(かいり)した論議など、議会が有効に機能していないことが多いという。

 議員のなり手不足の対策として、日中仕事をしている会社員でも議会活動ができるように、現在、報酬制度やその後の雇用保障、退職金制度の整備を検討している自治体もあるそうだ。また、地域にとって切実な課題を論議できるように、自治体の規模を調整する、つまりお互いの顔が見えるような小さな規模に「分ける」ことが著者から提案されている。

 自治体のあり方について多彩な分析と提言を行っている本書。私たちの誰もが属している地域社会を見直すきっかけとしても、本書は示唆に富むだろう。

情報工場 エディター 鵜養 保

情報工場 エディター 鵜養 保

東京都出身。国際基督教大学教養学部理学科卒、INSEAD MBA。新生銀行グループで事業戦略の立案・実行に携わる傍ら、副業解禁とともに情報工場にエディターとして参画。本業ではノンバンクのM&Aが専門。国産の旧車のレストアが趣味。田舎のガレージで自らエンジンの分解・組み立てをこなす、昭和のスバル車のコレクターでもある。

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