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今月の『押さえておきたい良書

『カミングアウト』-LGBTの社員とその同僚に贈るメッセージ

カミングアウトが、あなたの職場にとって最適なのはなぜか。

『カミングアウト』
 -LGBTの社員とその同僚に贈るメッセージ
ジョン・ブラウン 著
松本裕 訳
英治出版
2018/09 304p 1,900円(税別)

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 カミングアウトは、本人にも企業にも最適な選択である――これは、ゲイであることが暴露され、屈辱的な辞職に追い込まれたビジネスリーダーが、絶望の淵から蘇り、つかんだ確信だ。

 本書『カミングアウト』の著者は、石油会社ブリティッシュ・ペトロリアム(後のBP)を世界最大級のエネルギー企業に育てた元CEO。自らの体験を踏まえ、LGBT社員のカミングアウトについて多角的に考察している。

カミングアウトは企業に貢献できる道を開く

 日用品メーカーのクロロックス社に勤めるジョンソンは、発言によってゲイである秘密があらわになる恐れから精神的に消耗し、製品開発のためのよいアイデアも抑え込むことになった。こうした社員が自分を偽るストレスから解放されれば、本来の創造力や生産力を発揮し、企業の収益に貢献できるのだと、著者は数多くの取材や調査をもとに説く。

 本当の自分を隠し続けて生じた同僚や顧客との間の壁も、カミングアウトすれば取り払われ、仕事や取引が円滑になる。ヒューレット・パッカードのフェルドマンは、ゲイであることを隠し、私生活の話を拒否したせいで周囲から不信感を持たれていたが、カミングアウトによって同僚と打ち解け、有意義な人間関係を築けるようになった。そして同社で3回も昇進したという。

 LGBTの受容が組織にとって、またビジネスにとって寄与するというこうした認識の高まりが、意識改革のための重要な打開策だと著者は指摘している。

LGBTを受容する文化の大切さ

 LGBT社員のカミングアウトを阻む根底にあるのは、キャリアアップの妨げになる恐怖感や、先例となる企業幹部の不在だ。そこで本書は企業への7つの提案を行っている。LGBT受容の文化を従業員の考え方や態度に浸透させ、性的少数者が安心できる環境をめざすためのものだ。例えば、LGBT応援メッセージをメールの末尾に表示し、異性愛者の社員の協力を視覚化するアクセンチュアの取り組みなど、すぐにも実践できる好例が紹介されている。

 トランプ政権が性の定義を生まれつきの性別に限定することを検討しているという報道は、記憶に新しい。「少数派に対する攻撃の歴史は、たびたび繰り返される悲劇のひとつ」と著者は言う。異質と向き合い、互いの多様性を尊重するたゆまぬ営みにこそ、企業の、ひいては社会の本来と未来が宿るのではないだろうか。

情報工場 エディター 丸 洋子

情報工場 エディター 丸 洋子

慶應義塾大学文学部社会学科卒。小学5年からニューヨークで、結婚後はロンドンで、それぞれ2年間を過ごす。子育てが一段落したのち、英国の女流作家の小説を翻訳。現在は自宅で英語を教えながら、美術館では対話型鑑賞法のガイドを務める。好きな語学とアートの魅力を子どもたちに伝える喜びを感じながらも、みずみずしい感受性から学ぶことのほうが多く、日々活力をもらっている。日課の朝の散歩で季節の移ろいを感じるのが、至福のひととき。

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