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今月の『押さえておきたい良書

『京都、パリ』

京都とパリの共通点は、歴史とプライドにある?

『京都、パリ』
鹿島 茂/井上 章一 著
プレジデント社
2018/09 272p 1,200円(税別)

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 京都とパリ。中心部に大きな川が流れ、歴史的建造物が並ぶこの二大都市を「そっくり」と捉える人は多い。だが、本当に京都とパリは似ているのだろうか?

 本書『京都、パリ』はフランス文学者の鹿島茂氏と、京都出身でありベストセラー『京都ぎらい』(朝日新書)の著者である井上章一氏による対談である。京都とパリに精通した2人の視点から国民性や歴史、死生観、性風俗、環境問題、食文化を取り上げる。互いに京都とパリの差異を語りあい、相似を掘り起こしていく。

二大都市の差異と相似

 地理的環境が似ているとはいえ、計画的で整然としたパリと、自由で奔放に建築物が並ぶ京都の都市景観には大きな差がある。そんな異なる街に住む人の気質の違いを見ていくと、パリの女優は「男性がナンパをする機会を奪うな」と“MeToo”運動に反対し、京女は接触がタブーな日本で奥ゆかしく生きる。またエロティシズムを喚起する部位として、パリなら胸の膨らみやデコルテ、日本ならうなじや足首など間接的な箇所が注目される。このように、京都とパリの性質や嗜好は全く異なっている。

 一方で、平安時代やフランス王朝の時から共通して、女は媚態(びたい)を示して男の自尊心を満足させる術を持っていた。それが今の花街とパリのムーランルージュに継承されているのではないかと、著者らは推察している。

優位性とコンプレックスから知る都市の顔

 本書によると、京都は伏見や宇治を京都と認めないのだそうだ。そんな高飛車な態度を見せる京都も、パリに憧れ、芸術橋(ポン・デ・ザール)をお手本に鴨川に橋をかけようとしたことがあったのだという。

 そのパリだが、ローマにコンプレックスを抱いたことがあるようだ。歴史的には、美術や食文化が優れているのはフランスよりイタリアだったからだ。現在フランス内で比べると、実は商業や食事情が豊かなのはパリより、郊外のリヨンだ。これは歴史を誇る京都と、京都が軽視する大阪や東京との関係にも重なってくる。

 「考えることは比較すること」だ。何らかの対象物を観察する場合、複数の情報から比べると、人はより深くその思いを巡らすことができるという。京都とパリだけでなく複数の都市の事情を比べ、考察することで地域にもつ感情まで浮き彫りになる。そこから見える街の素顔に私たちは惹(ひ)きつけられるのかもしれない。

 本書を通して、今まで知り得なかった京都とパリの姿に触れる。その時を楽しんでほしい。

情報工場 エディター 増岡 麻子

情報工場 エディター 増岡 麻子

東京都出身。成蹊大学文学部卒。住居・建築・インテリア関連のイベント、コンサルティング事業を展開する複合施設に勤務。大学卒業後に取得した図書館司書資格を生かし、同施設内の建築系専門ライブラリーでレファレンスから企画運営までを担当する。
仕事柄、建築や住居のデザインへの関心が高く、休日はインテリアショップや書店巡りが日課。プライベートでは小説やエッセーをよく読む。遠藤周作、山本夏彦、カズオ・イシグロのファン。

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