1. TOP
  2. 2018年11月号
  3. ブレインハック 脳の潜在能力を引き出す45の習慣

今月の『押さえておきたい良書

『ブレインハック 脳の潜在能力を引き出す45の習慣』

「TO DOリスト」では仕事がはかどらない人に勧める、とっておきの方法

『ブレインハック 脳の潜在能力を引き出す45の習慣』
ニール・パヴィット 著
村山 寿美子 訳
小学館集英社プロダクション
2018/09 288p 1,500円(税別)

amazonBooks rakutenBooks

 考えがまとまらない。アイデアが浮かばない。こんなとき「どうせ脳のつくりが悪いから」とあきらめてはいないだろうか。だが、本書『ブレインハック 脳の潜在能力を引き出す45の習慣』では、脳は生まれつきの能力より使い方次第で多くの可能性を引き出せると説く。

 本書では、無意識な行動の理由を明らかにし、脳の使い方に意識的になることを「ブレインハック」と名づけ、脳の働きをより生産的、創造的にするためのコツを45の習慣として解説。スティーブ・ジョブズやアインシュタインといった著名な事業家や学者、作家などの実例も数多く紹介している。

 著者はクリエイティビティコーチとして創造的な潜在能力追求をテーマに著述やワークショップを行っている。

「To Doリスト」からの脱却

 「もっと賢く考えるために」「さぁ、頭を切り換えよう」など5章にわたって列挙される習慣のトップにくるのが「<To Doリスト>より<完遂リスト>をつくろう」だ。

 効率よく仕事をするためにTo Doリストを作成する人は多いだろう。しかし、実際には半分も終えられずに翌日まわしとなり、それは「やろうとしてやれなかったリスト」に変容してしまう。これではストレスと不安がつのるばかりだ。

 一方、気持ちを前向きにしてくれるのが、著者が勧める完遂リストだ。

 “実際にやり遂げたことを目にすることであなたの心は奮い立つ。もちろん、振り返ってみるとなんと少ししか達成できていないことかと思ってしまうこともあるかもしれない。けれども、かえってあなたは一層奮い立つかもしれない。”(『ブレインハック 脳の潜在能力を引き出す45の習慣』p.15より)

 心を奮い立たせ、脳にポジティブな影響を及ぼすかどうかが、2つのリストの決定的な違いとなる。

 このポジティブ効果を上げるためにも、完遂リストに載せるのは完遂までの過程を誇らしく振り返れるものにしたい。自分にとって価値があると思えることなら、なんでもいい。

 アメリカのコメディアンであり脚本家のジェリー・サインフェルド氏は、新人芸人にアドバイスを求められ、自らの習慣を伝授した。それは、よいジョークを創るために書くことを日課とし、書けたらカレンダーにバツ印をつけるというもの。バツ印が鎖のようにつながっていくことで完遂までの道のりを可視化し、鎖を切ってはだめだと自分に言い聞かせながら、やりぬいたそうだ。

新しいことをしたり、退屈したり

 ポジティブ脳で地ならしをしたら、次はより多くのアイデアを生み出す習慣を身につけたい。本書ではその1つとして「いつもと違うことをしよう」と提案する。

 私たちは知識が多いほどいいアイデアが浮かぶと考えがちだが、ヒトの頭は既知の情報で見方の方向づけが一度されると、別の方向からは考えにくくなる。頭が固くなってしまうのだ。

 本書では、自宅周辺を毎回違う人と11回散歩した心理学者アレクサンドラ・ホロビッツ氏の実験を紹介している。彼女が音響エンジニアと散策すると、都市の騒音はたちまち味わいある音に変化した。地質学者と歩けば、人工的な街が命を抱えるエコシステムに姿を変えた。

 状況の変化により脳内に新たな情報連絡経路がつくられ、見聞きする対象が様変わりしたのだ。このように固定した見方を変えれば、新たなアイデアも生まれやすくなる。

 さて、それでもアイデアに詰まったら、その現状をどう打破するか。退屈な時間、あえて何もしない時間をつくってみてはどうだろう。例えば、喫茶店での友人の待ち時間をスマホチェックで埋めたりしない。窓の外に目を向けてぼーっと心をさまよわせる。

 1人で何もせず退屈している時間が、独創性や創造性に大きく影響することは、ペンシルベニア州立大学をはじめ複数の大学の実験で明らかになっている。

 脳の潜在能力を引き出すのに、大層なトレーニングや道具は必要ない。何かを止めたり、ほんの少しやり方を変えたり。今すぐ試したくなる習慣がいくつも見つかるはずだ。

情報工場 エディター 大武美和子

情報工場 エディター 大武美和子

東京都出身。小学校から高校まで女子校通いの後、慶應義塾大学文学部へ。四大女子超就職難時代ゆえ大企業への就職とは縁遠く、出版社のアルバイト、少々の貿易事務などなどを経験。いつの間にか書くことを仕事にして今に至る。東京に生まれ育って、最近とみに思うのは、道端の草花を目にして「これはネジバナ」「あれはアカノマンマ」と分かったら、さぞ楽しいだろうということ。なので、今のところの愛読書は『柳宗民の雑草ノオト』。

amazonBooks rakutenBooks

今月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店