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2018年10月の『押さえておきたい良書

『なぜ倒産』-23社の破綻に学ぶ失敗の法則

あなたの企業は経営の羅針盤を持っていますか

『なぜ倒産』
 -23社の破綻に学ぶ失敗の法則
日経トップリーダー編
日経BP社
2018/07 288ページ 1,600円(税別)

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 本書『なぜ倒産』によると、2018年は「企業淘汰の始まりの年」だという。2015年頃から本格化した総人口の減少により国内市場の縮小が加速。この環境の中で、企業の経営者は未知の変化に直面しなくてはならないのだという。そうした状況に対応するために、企業の破綻へと至る過程を通じて、失敗の法則を学ぼうというのが本書の趣旨である。

 本書は、月刊誌「日経トップリーダー」に連載された「破綻の真相」を基に編集したもの。同誌は長年、破綻企業の動向を取材し、破綻の理由について分析してきた。本書ではその中から中小企業23社の事例をピックアップし、経営破綻によく見られる11のパターンに分類している。

「攻めの投資」で破綻する企業

 本来、企業の事業継続や拡大に「投資」は必要不可欠なものだろう。だが、本書のケースを見ると企業のトップがほんの少し先行きを見誤ったために、投資が裏目に出てあっという間に転落してしまうことが分かる。

 たとえ事業を後押しするブームが起きていても、企業の安泰を保証するものではないようだ。本書には「みらい」という植物工場ベンチャーが取り上げられている。植物工場は2009年頃から「未来の農業」と注目され、2004年創業のみらいは業界をリードする旗振り役として知られていたという。南極・昭和基地へ植物工場を導入し、テレビ番組に取り上げられたこともあったそうだ。

 だが、2015年に破綻。同社の野菜は、設備代や電気代を上乗せするため価格は高価であるにもかかわらず十分な販路がなく、しかも廃棄ロスも多かったそうだ。にもかかわらず、2つの大型工場を建設するなど、積極的な経営を続けていた。本書を読む限りでは、植物工場ブームがみらいにとっては“落とし穴”だったようだ。植物工場の研究や普及に政府の補助金が投入されたこと、ライバル社が多数参入してきたことが、経営者の焦りを生み、性急な事業拡大に踏み切らせてしまったのだ。

経営者は万能ではなく、助言者の存在が必要

 本書には他にも様々なケースが紹介されている。事情は各社で異なるものの、気になるのは経営者が近視眼的であったという点だ。上述のみらいの経営者は研究者肌で、組織のマネジメント力や資金繰りを考えることが苦手だったという。驚くべきことに、理解が不十分なまま、銀行に薦められたデリバティブに手を出して大打撃を受けた中小企業のトップも本書には登場する。

 経営者は万能ではない。岡目八目というように、未知のリスクがある中で事業を進めるには、財務構造、市場環境の動向等、自社の内外の状況を第三者的な視点から進言してくれる存在は欠かせないのではないか。

 「経営者は局面を冷静に分析できる相談相手や協力者をそばに置くことも大切」という、経営破綻した中小部品メーカーの元社長の言葉は非常に示唆的だ。あなたの周囲には、部下、コンサルタント、友人等様々だろうが、助言に従って失敗しても後悔しない程度に信頼に足る人物がいるだろうか。宝を探して海に出るには助言者という羅針盤が必要だ。

 自分のことを振り返っても、他人の助言が有効だったことがある。私は大学の経営企画部門に携わっているが、短期的には確実に赤字となるが、長期的にはおそらくプラスに影響するプロジェクトがあった。関係者の意見やアドバイスは立場によって様々であり、このプロジェクトを進めるべきかどうか、私は堂々巡りに陥っていた。

 そんな時、同じく経営企画に携わる、大学時代からの先輩から「長期的な見通しが組織のためになる」との力強い助言を受けた。展望についても客観的かつ具体的に考えてくれた。そうして私は腹が決まり、プロジェクトを進めることができた。開始直後は説明責任で大騒ぎの毎日だったが、数年たった今では目指す状況に近づいている。

 経営者でなくても、ビジネスパーソンならば意思決定をすることが多いだろう。そのとき、目の前の状況を本当に把握できているだろうか。適切な意思決定のために欠けているものがないだろうか。本書を他山の石として、自身のビジネスを進めてもらいたい。

情報工場 エディター はら すぐる

情報工場 エディター はら すぐる

香川県出身。現在、地方大学の経営企画部門で事務職として働く。財務会計システムから得られる会計情報と、業務上の報告書やそのバックデータといった非会計情報の関係付けに“たゆたう”日々。時々ワークショップを開催し、人材育成を行うことも。職業柄、人文、社会、自然と分野を問わず関心を持つように心掛けているので、読書の分野も様々。漫画も好きで、苦手な分野はとりあえず漫画から入ることにしている。

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2018年10月のブックレビュー

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