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2018年10月の『押さえておきたい良書

『ジ・エンド・オブ・バンキング』-銀行の終わりと金融の未来

デジタル時代でも暴走しないバンキングの新たな姿とは?

『ジ・エンド・オブ・バンキング』
 -銀行の終わりと金融の未来
ジョナサン・マクミラン 著
桜田 直美 訳
かんき出版
2018/07 288p 1,700円(税別)

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 2008年9月、米国の投資銀行リーマン・ブラザーズ・ホールディングス倒産。世界中に与えたその衝撃は、いまなお記憶に焼きついているのではないだろうか。元凶はといえば、リーマンを含む投資銀行が積極的に貸し付けた住宅ローンの不良債権化だ。将来の収入では返済が厳しいサブプライム層への住宅ローンは、どうしてまかり通っていたのだろうか。

 デジタル化に呼応して複雑さとリスクが増す現代の金融システムの問題点を指摘し、その解決策を提示するのが本書『ジ・エンド・オブ・バンキング』だ。著者のジョナサン・マクミランはペンネーム。大学の同級生だった二人の人物の共著で、一人は金融の修羅場を知る投資銀行家、もう一人は銀行規制を熟知するマクロ経済学者である。

 著者は、未来の金融危機を免れるために、タイトルにある通り「バンキングを消滅させる」ことが必要だと説く。

住宅ローンが優良格付けの証券へ

 「バンキング」とは、あらゆる形態の銀行業を意味する場合があるが、本書では「信用からマネーを創造すること」と定義される。つまり、バンキングとは将来の支払い能力を示す信用を当てにして、目先の支払いのためのマネーを創造することである。例えば住宅ローンは、借り手の将来の支払いを貸手が「信用」し、目先の住宅購入のための「マネー」を貸し手が提供する。

 信用の低いサブプライム層であっても住宅ローンを出せば、銀行はマネーを作りだせる。ただし、銀行には自己資本規制があり、無尽蔵にローンは出せない。ローンを増やしたければ、増加する貸し倒れリスクで預金者に迷惑をかけないよう株主資本を増加させなければならないのだ。

 そこで銀行は、自己資本規制のない別会社をつくってそこにローンを転売する。別会社は、買ったローンを担保に証券を発行する。これがローンの証券化である。証券に優先返済条項を付せば高い格付けが得られ、金融機関や投資家にも商品として販売できる。ローンを売却した銀行は自己資本比率が上がるので、また新たなローンを貸し出せる。こうして銀行や、銀行からローンを買った別会社には不安定な信用を抱えるバランスシートが連鎖的に増殖していく。

 住宅ローンがより多くの人に提供され、住宅着工・販売が増加すれば、雇用や消費も増えて資産価格も上昇、目先の経済の好循環が始まる。しかし、本来の返済能力を無視したバンキングによる景気は続かない。いずれローン返済が滞れば、信用バブルが崩壊、不動産の担保価値も下落、大規模な取り付け騒ぎが起こりかねない。

 リーマン・ショックの背景には、こうした証券化が銀行の自己資本規制をくぐり抜け、格付けも正しく行われず野放し状態になってしまったことがある。著者は、こうした銀行の手口が、デジタル化の進展でいっそう簡単に行われるようになったと指摘する。

問題の本質と解決策

 現行のバンキングシステムの問題の本質は、信用とマネーの役割が正しく分担されず、将来の支払い能力をあらわす信用から、安易にマネーを創造して目先の支払いに使い、後で返せないツケを膨らませていることだ。

 解決策はマネーと信用の結びつきを断ち切ることだ。マネーは公的セクターが管理する電子化されたマネー以外は使えないようにする。将来の支払い能力をあてにしたお金の貸し借り(信用取引)は、ソーシャルレンディングやインターネットを使った個人間の直接融資でまかなう。ただし、借りたお金の貸し出しは禁止する。これで信用からのマネー創造はできなくなる。景気は公的セクターが経済成長に合わせてマネーの供給量を管理することで調整していけばよい。

 こうしておけば、信用市場で嵐が起きても、信用から創造されたマネーは存在せず、大きなパニックにはならない。デジタル技術を逆に活用すれば、こういう抜本的な対策も夢ではないというのだ。

 本書は情報化の波で産業や社会構造がどう変化するのかを考えるヒントが満ちあふれている。秋の夜長に、本書を参考に様々な業界の将来像、未来の生活を思い描くのも楽しそうだ。

情報工場 エディター 鵜養 保

情報工場 エディター 鵜養 保

東京都出身。国際基督教大学教養学部理学科卒、INSEAD MBA。新生銀行グループで事業戦略の立案・実行に携わる傍ら、副業解禁とともに情報工場にエディターとして参画。本業ではノンバンクのM&Aが専門。国産の旧車のレストアが趣味。田舎のガレージで自らエンジンの分解・組み立てをこなす、昭和のスバル車のコレクターでもある。

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2018年10月のブックレビュー

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