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2018年7月の『押さえておきたい良書

『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』

体に良い食品選び、鍵を握るのはエビデンス

『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』
津川 友介 著
東洋経済新報社
2018/04 198p 1,500円(税別)

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 「○○を食べると体に良い」という健康に関する情報はテレビ番組、書店、インターネット上にあふれ、日々更新されている。目新しい情報に飛びつき、うのみにする人も多いだろう。しかしこうした意見は日々変化していったり消滅したりするものもあり、何を信頼すべきか判断できない場合がある。

 本書『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』は、どのような食事をすれば病気にかかるリスクを下げ、健康を維持したまま、長生きできる確率を上げられるかをまとめ、紹介したものだ。

 著者はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)内科学助教授として活動する医師。長年にわたる研究によって証明された科学的根拠(エビデンス)をもとに、食品を「健康に良いとされる食品」から「健康に悪いとされる食品」まで5つのグループに分けている。

科学的に証明されたデータ

 著者は「健康に良いということが複数の研究で明らかになっている」食品として、①魚、②野菜と果物、③玄米や全粒粉などの茶色い炭水化物、④オリーブオイル、⑤ナッツ類の5つを挙げている。これらは脳卒中、心筋梗塞、がんなどの発症リスクを下げ、健康に良いと考えられている。

 本書では、2016年に欧州で発表された、12個の観察研究(合計67万人)のデータの分析結果が紹介されている。それによると、1日に60gの魚を食べた人は全く魚を食べない人に比べ、死亡率が12%下がっていたという。

 一方、健康に悪いということが複数の研究で報告されている食品は、①牛肉や豚肉などの赤い肉、②白米やじゃがいもなどの白い炭水化物、③バターなどの飽和脂肪酸の3つだ。本書では、“白い炭水化物”にあたる、白米の摂取量が多ければ多いほど、糖尿病になる可能性が高くなることが指摘されている。だが、同じ米でも“茶色い炭水化物”、つまり精製されていない玄米は体に良いのだという。

 米国、英国、北欧の国々で行われた78万6000人の研究データを使った分析によると、1日70gの茶色い炭水化物を食べた人のグループは、それをほとんど食べなかった人のグループに比べると死亡率が22%低かった。また、玄米を週に200g以上食べる人たちは、月に100g未満しか食べない人たちに比べて、糖尿病になるリスクが11%低かったという。

「成分」に惑わされてはいけない

 “人間は食べたものでできている。何を食べ、何を食べないかは全ての人が日々実行している小さな「選択」である。(中略)毎日の小さな選択は、確実にあなたを病気から遠ざけたり、近づけたりしている。”(『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』p.1-2より)

 著者は、健康に良い食品を選ぶことの重要性を説くとともに、ある“落とし穴”も指摘している。それは、食品に含まれる「成分」を重視しすぎてしまうことだ。

 かつて、緑黄色野菜を多く摂取している人に胃がんや肺がんが少ないことが報告され、緑黄色野菜に多く含まれるβカロテンが注目されたことがあった。しかし、研究を続けていくうちにβカロテンのみを摂取するとがんのリスクが上がるなど健康被害が出ることが明らかになったという。

 著者は、野菜や果物が健康に良いという科学的根拠はあっても、それらに含まれる成分が有効だと実証されたわけではない、と説明する。つまり、健康に良いとされる食品は、そのまま食べることが大事なのだ。

 健康になるための食事、病気にならないための食事。確かな情報を入手するには、長く研究されてきたエビデンスが食品選びの後押しをしてくれる。夕食のメニューを考えるとき、あるいはスーパーで食材を手にするとき、著者がくれた、シンプルなルールを頭に浮かべてみたい。

情報工場 エディター 増岡 麻子

情報工場 エディター 増岡 麻子

東京都出身。成蹊大学文学部卒。住居・建築・インテリア関連のイベント、コンサルティング事業を展開する複合施設に勤務。大学卒業後に取得した図書館司書資格を生かし、同施設内の建築系専門ライブラリーでレファレンスから企画運営までを担当する。
仕事柄、建築や住居のデザインへの関心が高く、休日はインテリアショップや書店巡りが日課。プライベートでは小説やエッセーをよく読む。遠藤周作、山本夏彦、カズオ・イシグロのファン。

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2018年7月のブックレビュー

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