1. TOP
  2. これまでの掲載書籍一覧
  3. 2018年6月号
  4. 日本の国難 2020年からの賃金・雇用・企業

2018年6月の『押さえておきたい良書

『日本の国難 2020年からの賃金・雇用・企業』

産業衰退、少子化、政府債務 先送り体質が日本を殺す

『日本の国難 2020年からの賃金・雇用・企業』
中原 圭介 著
講談社(講談社現代新書)
2018/04 218p 800円(税別)

amazonBooks rakutenBooks

 日本の将来はいったいどうなるのか。

 数々の問題を抱えていることは分かっているが、2020年の東京オリンピックまでは上昇傾向が続く。そしてその後もこれまでのようになんとかなる……、無意識のうちにそう思っている人が多いのではないだろうか。

 しかしそうした都合の良い思い込みは、現実にはならないかもしれない。本書では2005年時点でサブプライム崩壊を予見するなどの実績をもつ著者が、2020年前後やそれ以降の日本経済や国民生活がどうなっているのかについて、企業や雇用、賃金にスポットをあてながら分析する。

 データを冷静に眺めてみると、日本をとりまく現状は想像以上に深刻だ。たとえば、日本の経済成長には米国や中国への輸出が欠かせない。だが2017年12月末時点で、米国の家計債務は約13兆ドルと、リーマン・ショック時を超えた水準にあるという。こうした状況は超低金利によって成立しているが、ひとたび金利が上昇に転じれば米国の景気は停滞し、再び世界的な金融危機が起こり、日本も大きな影響を受けることになる。

 著者は経済アナリスト。経営・金融のコンサルティング会社アセットベストパートナーズにて、企業や金融機関などへの助言・提案を行っている。

日本経済を停滞させる「先送り」

 日本の経済が長期にわたって停滞した理由といえば、1991年のバブル経済の崩壊を挙げる人は多い。しかし著者によれば最大の原因は、政府・銀行・企業が様々な問題の解決を先送りにし、時間を浪費したことだ。こうした傾向は、日本の基幹産業である自動車産業にも見られる。

 昨今の自動車の世界には、電気自動車など、クリーンエネルギー車に軸足を移す動きが起こっている。たとえばフランスと英国は、2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出している。

 しかし本書によれば、日本を代表する自動車会社のトヨタは、こうした流れに逆行してしまった。2014年には世界最高水準の蓄電池の技術をもつテスラからの電池調達を中止し、代わりに、目先で売れるハイブリッド車の開発に力を入れたのだ。それらはいずれ売れなくなることが明確であるにも関わらずだ。

 最近は改めて電気自動車に力を入れ始めたというが、他国のメーカーと比較して出遅れ気味だ。今後、欧米や中国のメーカーがエネルギー効率や機能に優れた電気自動車の開発に成功した場合、東芝やシャープのように転落する可能性すらゼロではないという。

政治の先送りで少子化は取り返しのつかない事態に

 先送りが影響を及ぼすのは産業に限らない。著者によれば、最も深刻なのは少子化だという。少子化は、国家としての経済規模の縮小、税収不足に伴う財政危機など、国民の生活水準の低下に直結する。それを先送りにすれば、日本の国力が大いに損なわれる。

 そして少子化問題は、何か対策を打ったからといって、2、3年で解決するような話ではない。現在の出生率が低下するということは、将来の出産適齢期の女性が減少することだからだ。

 よって日本は既に、今後20~30年間の少子化を止めることが不可能な状態になっている。こうした流れをくい止めるためには、今すぐに抜本的な対策を講じる必要がある。しかし多くの政治家は成果が数十年先に出る政策よりも、今の有権者から投票してもらえる政策を優先する傾向にある。そのため、少子化対策がなかなか実施されないという状態が続いているのだ。

 本書ではこのように、日本人の耳が痛くなるようなトピックが数多く書かれている。上記の他にも先送りの例として、政府の借金依存体質も挙げられている。ここ10年で政府債務は大きく膨れ上がり、GDPの2倍以上の金額にもなっているのだが、2018年も低金利をいいことに30兆円を超える国債を発行しようとしているというのだ。

 我々はこうした数々の問題について、今は気づかないふりをしていることができる。しかし解決につながらない先送りでは、いずれ必ず無視できなくなる時がくるだろう。まずは本書を手に取ることで、危機感のスイッチを入れてみてはいかがだろうか。

情報工場 エディター 宮﨑 雄

情報工場 エディター 宮﨑 雄

東京都出身。早稲田大学文化構想学部卒。前職ではHR企業にて採用・新規事業開発に従事。情報工場ではライティングの他、著者セミナーの運営などを担当。その他の活動には、マンガ情報メディアでの記事の執筆、アナログゲームの企画・制作など。好きな本は『こころ』『不実な美女か貞淑な醜女か』。好きな場所は水風呂。

amazonBooks rakutenBooks

2018年6月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店