2018年6月の『押さえておきたい良書』
読書そのものに対して、苦手意識を持っている人は、少なくないだろう。
実は、読書を苦行にしているのは、本人の「実力不足」だからではない。難しい話は苦手だから、漢字を知らないから、といったことではない。
読書を妨げる最大の障壁は「心のバリア」である、そう指摘するのが本書『理科系の読書術』だ。つまり、余計な思い込みが制限をかけて、楽な読書を妨げている、時には自分の見えが障害を生んでいるのだ、という。
本書では、そうしたバリアを取り除いて本と苦労なく向き合う方法や、難解な本の読み方、多読・速読・遅読の技術、アウトプットを優先した読書術など、「本がなかなか読めない」と嘆く人に向けた28の読書スキルを公開している。これらは、国語や歴史が不得意だった“理系人”である本書の著者が、必要に迫られて獲得してきたものだという。
著者は京都大学大学院人間・環境学研究科の教授。
棚上げ法と不完全法で「心のバリア」を解く
火山学の研究者として研究所で19年、大学で20年、足かけ40年ほど大量の論文や書籍を読んで仕事をしてきた著者は、本から効率的に情報を得るノウハウを身に付けざるを得なかったそうだ。
理系的な考え方にこそ、本質を抽出するための合理的な知的ノウハウ(理系の構造主義=個々の現象をミクロに見るのではなく、全体の構造をマクロに把握する方法論)と、書籍・報告書・論文を読みこなす情報処理技術がある、と著者は述べる。
その両方を読書術に応用したものが、著者の言うところの「心のバリア」を解き放つ、理科系の読書術だ。
第一歩として、まず、できるだけ楽に本が読める方法を身に付けること。
具体的には、分からないことが出てきても一時的に棚上げし、見切り発車で先へ進む。通読して全体像が見えてくると、おおよその意味が推察できてくるだろう。完璧を求めて不安の底なし沼に陥ることもない。こうした“棚上げ法”と“不完全法”の技術は、理系的な考え方の特徴なのだそうだ。そして難解な本を読む際、非常に有効だという。
また、本を読み始めたものの、難しくてかなわないと思った本の9割は、著者の書き方が悪いので読むのをやめてしまってよい。
こうして、読書する際の心理的負担を減らしていく。すると、誰でも楽に読書ができるうえ、読書そのものが好きになる、と著者はいう。
「アウトプット優先」による読書術
読書への苦手意識が消えたら、次に、効率よく読む読書術も身に付けたい。著者が重視するのが「アウトプットを優先する」ということだ。つまり、具体的な文章を書く、企画を出す、といった目的を明確にし、その目的のための読書だと意識することである。
・読書による、情報の収集と整理
・読書で集めた情報をもとにした創造的な発想
・アウトプットの実行と将来への準備
これら3つを柱としながら“アウトプットという最終生産物”を生み出すことを目的として先行させると、読書の状況は一変するのだそうだ。
例えば、自分で立てたテーマについて情報収集を行うとする。雑誌ならまず目次を見て、目的に合致した項目だけを読む。ネットサーフィンをする場合でも、関心テーマに絞って調べ、目的から外れたことは決して深追いしないように意識する。
そのとき、今の自分が手に入れたい知識を3つに限定し、それが達成されたら読むのをやめてもよい。
どうしても読書に対する苦手意識が消えない、という人はぜひ本書を参考にしてほしい。心のバリアが解けたら、その先にある様々な読み方もきっと楽しめることだろう。
情報工場 エディター 平山 真人
鹿児島県出身。演劇活動をしながら児童文学作家 山口理氏のもとで物語創作ならびに文章術を学ぶ。あるとき新聞連載の企業コラム執筆の機会を得たことから、本格的にライター業を開始。また多彩な職種経験(画家の助手など)で培ってきた広い視野を生かし、独自のカウンセリングサービスも行う。井上ひさし氏の言葉「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに」が自らの信念。趣味は父の影響を受け、盆栽を少々。