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2018年5月の『視野を広げる必読書

『ティール組織』-マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

上下関係も、売り上げ目標もない、誰もが生き生きと働ける夢の組織が現実に

『ティール組織』
 -マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現
フレデリック・ラルー 著/鈴木 立哉 訳/嘉村 賢州 解説
英治出版
2018/01 592p 2,500円(税別)

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どうして決裁までにこんなに時間がかかるのか

 一般的に会社では、物品の購入や設備の導入、作業の外注、他社との提携といった、さまざまな判断や決裁が日々必要となる。

 現状では多くの会社の組織は階層構造になっており、役職ごとに権限が定められている。そうした権限を越えて判断をしなければならない場合には、上長に相談し決裁を仰ぐのが普通だ。重大な案件になると、上長のさらに上役というように階段を上ってゆき、取締役会での承認まで必要なこともあるだろう。

 そうなると、社内調整や起案文書の用意などで膨大な手間と時間がかかる。何カ月もかかることさえある。

 だが、実際のところ、現場だけで判断材料がそろっていることも少なくない。上長にお伺いをたてる必要がなく、その場で判断していければ、業務ははるかにスピーディーに、かつスムーズに進むはずだ。

 本書『ティール組織』の著者、フレデリック・ラルー氏は、現場から遠い人間から承認を得なければ前に進めないような階層的な組織には「労働者は怠け者で信頼できない」といった前提が隠れていると指摘する。

 そして、そうした前提に立たず、逆に信頼に基づき現場の判断でことが進められる、新しいかたちの組織が生まれているという。

 著者は、大手コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーで10年以上組織変革プロジェクトに携わったのちにエグゼクティブ・アドバイザー/コーチ/ファシリテーターとして独立。その後、世界中の組織事例を研究し、最先端のモデルとして「ティール組織」のあり方を提唱した人物だ。

 本書では、人類の組織形態は、いくつかの段階を踏んで進化してきたとしている。それぞれの段階の組織には、その特徴を表す名前と象徴的な色が割り当てられている。

 進化する順序で列記すると、力や恐怖により小規模集団を支配する衝動型(レッド)組織、封建国家や軍隊など身分の階層で支配する順応型(アンバー:こはく色)組織、現代のグローバル企業など実力主義による階層構造を持つ達成型(オレンジ)組織、階層を残しつつもボトムアップで合意形成する多元型(グリーン)組織となる。

 そして、最新の組織形態として広まりつつあるのが「進化型(ティール:青緑色)組織」、本書のテーマである。

 ティール組織では、現場のチームが担当業務に関するすべての権限を持ち、責任を負う。階層も中間管理職も存在しない。

 社内調整のための会議は最小限にとどめられる。現場で業務に必要なすべての意思決定を行い、そのためのルールや仕組みが明確に決められている。

 またティール組織には、売り上げ目標や予算といった概念がない。それなのに、全員がやりがいと責任感を持って仕事をし、高い収益をあげているというのだ。

 「そんな夢のような組織が存在できるものか。仮にできたとして、せいぜい10人くらいの企業だろう」などと思うかもしれない。

 だが、本書によれば、ティール組織は現存して多くは成功しており、その中には数百人から数万人規模の世界企業もあるというから驚きだ。

管理統制システムを撤廃し売り上げを伸ばした部品メーカー

 本書に紹介されているティール組織の例を見てみよう。

 フランスの金属部品メーカーFAVIは従業員500人超の企業。ギアボックス・フォークという自動車製造に使われる変速用部品が主力製品だ。

 同社は今でこそティール組織なのだが、かつては従来型の階層組織だった。複雑な管理統制システムのもと、分刻みの生産管理を行っていた。

 しかし、1983年にジャン・フランソワ・ゾブリスト氏がCEOに就任し、大改革に踏み切る。そしてタイムカードや生産ノルマなど、一切の管理統制システムを撤廃した。

 そんなことをしたら誰もちゃんと働かなくなり、生産性が一気に低下するのでは、と心配する人もいるだろう。しかし、実際にはむしろ生産性が以前よりはるかに上がったというのだ。

 必要以上に管理されず、自然なリズムで伸び伸びと働けるようになったことで、従業員の意識が変わった。

 タイムカードがあった頃には、終業時間になるとまだ作業中であっても工場の機械から離れる者が多かった。ところが、改革後には時間にとらわれず、責任を持って仕事をきちんと仕上げるのを優先する従業員が増えたという。

 ゾブリスト氏はさらなる改革を進め、現在FAVIは、アウディやボルボなどの顧客ごとの「ミニ・ファクトリー」と呼ばれる15~35名で構成されたチームに分かれて業務を行っている。営業部、人事部、企画部、スケジュール管理部、購買部といった部門はすべて閉鎖され、それらの機能はすべて各チーム内でまかなわれる。

 ここで行われているのは、各チームの自主経営(セルフ・マネジメント)だ。あらゆる権限と責任はチーム内にあり、ルールや手続きもチーム内のさまざまな業務を担当するメンバーが自主的に話し合って決める。すべてのメンバーが現場にいるため、つねに情報が共有されており、階層組織のように報告や伝達に時間と手間をとられることがない。問題が発生したらその都度必要なメンバーで話し合いが行われ、たいていは短時間で解決する。全員が組織の存在目的を理解しており、互いに信頼しあっているからだ。

 また、チーム間連携の仕組みも用意されている。たとえばあるチームで人手不足が発生した場合に、他のチームの人員を短期的に貸し出すなどの調整が行われる。

 FAVIは同業他社が中国に生産拠点を移すなか、唯一欧州に残ったメーカーであり、ギアボックス・フォークで50%の市場シェアを誇る。品質の良さに定評があるそうだ。また、これまでの25年以上の間、納期に遅れた注文が1つもないという。

 さらに従業員の給与は業界平均をはるかに上回り、離職率は事実上ゼロ。しかも毎年高い利益率を維持している。

生命体のように自然の法則で各自が自主的に動く

 著者は世界中の組織を2年半にわたり調査し、FAVIをはじめとする12のティール組織の成功例を見つけた。

 12組織の中には営利、非営利どちらの組織も含まれており、規模もさまざま。業種も小売、メーカー、エネルギー、食品、教育、医療などバラバラだったという。

 つまりどんな組織形態や規模、業種であってもティール組織として運営可能ということなのだろう。

 本書でティール組織は「生命体」のようなものと説明されている。たとえば人体を構成する各器官は、自然の法則に従い、他の器官と連携しながら自主的に働く。同様にティール組織は、メンバー全員が自立した個人として、チームが目的を達成するべく主体的に働く。

 各メンバーがプライベートと仕事をあまり分けないのも、ティール組織の特徴の1つだ。会社に子どもや飼い犬を連れてくるのも許される。そうすることで組織の一員ではなく、「本来の自分」である自立した個人として働きやすくなるからだ。

 ティール組織におけるチームメンバーの判断基準は明確だ。組織の「存在目的」に合致するかどうか。したがって、正しい判断が行われるためには、メンバー全員に組織の存在目的が共有され、十分理解されている必要がある。メンバー同士に確固たる信頼が存在するのも必須だ。そのために、多くのティール組織で、新規メンバーが参加する際に、濃密な集合研修などが行われる。

 ティール組織の考え方では、利益や成果は、組織が存在目的を果たすように動いた結果としてついてくる。

 本書はさまざまな業界や規模のティール組織を取り上げ、詳細に分析している。自社をティール組織に変えるための手順や注意点などもくわしく紹介している。

 組織改革の必要性を痛感する経営者をはじめとする、ビジネスパーソン必読の1冊といえるだろう。

情報工場 シニアエディタ― 浅羽 登志也

情報工場 シニアエディタ― 浅羽 登志也

愛知県出身。京都大学大学院工学研究科卒。1992年にインターネットイニシアティブ企画(現在のインターネットイニシアティブ・IIJ)に創業メンバーとして参画。黎明期からインターネットのネットワーク構築や技術開発・ビジネス開発に携わり、インターネットイニシアティブ取締役副社長、IIJイノベーションインスティテュート代表取締役などを歴任。現在は「人と大地とインターネット」をキーワードに、インターネット関連のコンサルティングや、執筆・講演活動に従事する傍ら、有機農法での米や野菜の栽培を勉強中。趣味はドラム。

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2018年5月のブックレビュー

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