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2018年4月の『押さえておきたい良書

『宇宙に命はあるのか』-人類が旅した一千億分の八

“人類の起源”を探る鍵にもなる地球外生命は見つかるか

『宇宙に命はあるのか』
 -人類が旅した一千億分の八
小野 雅裕 著
SBクリエイティブ(SB新書)
2018/02 276p 800円(税別)

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 「宇宙人はいるのかな」。子どもの頃、空を見上げてこんな想像をしたことがある人は、きっと少なくないだろう。今、その想像は絵空事というわけではなくなってきた。宇宙人はともかく、地球以外に存在する生命の可能性については、現代の科学は否定的ではないようだ。

 本書『宇宙に命はあるのか』は、宇宙探査の最新の知見から「地球外生命はいるのか」という謎に迫る1冊だ。数々の研究者や技術者たちの知られざるエピソードを交えながら、宇宙ロケットの誕生からアポロ計画、太陽系探査、地球外生命・文明の探索まで、宇宙探査の歴史と最前線とを解説。これまでに明らかになった宇宙の驚くべき姿を紹介するとともに、地球外生命と人類の起源について思索をめぐらせている。

 副題にある「一千億分の八」とは、1000億個の星があるといわれる銀河系において、人類が何らかの形で近づいて調査できた太陽系惑星の数が8つにすぎないことを指している。

 著者はNASA(アメリカ航空宇宙局)の中核研究機関であるJPL(Jet Propulsion Laboratory=ジェット推進研究所)で、火星探査ロボットの開発をリードする気鋭の日本人技術者。

火星の地下に生命の可能性が

 地球外生命は存在するのか。本書によれば、その可能性がある太陽系の星は少なくとも3つ。火星、木星の衛星エウロパ、そして土星の衛星エンケラドスである。

 現時点で人類の調査がもっとも進んでいる火星は、生命に適した環境ではないことが知られている。南極のような寒冷砂漠で(液体の)水はなく、有害な放射線が激しく降り注いでいるからだ。

 だが一方で、火星の地下には大量の水が氷となって存在することもわかっている。氷は放射線を効果的に遮断する。また、火星の地下は温度の変化も穏やかだ。もしかしたら火星地下の岩石や氷の中に潜んでいる命があるかもしれない、と著者はいう。

 さらに火星は約40億年前には地球と同じように濃い大気と温暖な気候があったことが判明している。太古の火星には生命が存在したかもしれない。NASAは、火星の土を採取して地球に持ち帰り、生命の痕跡を調べるプロジェクトを進めており、2020年にその第一歩を踏み出すという。(本書の著者もこの計画に関わっている)

地球外生命は人類の起源を解くヒント

 著者によれば、地球外生命の発見は人類史上最大の発見の1つとなる。なぜなら地球外生命は、「我々がどこから来たのか」という途方もない謎を解く鍵になりうるからだ。

 地球上の生命の起源はいまだ解明されていない。ただ、地球上の生命はことごとく同じ仕組み(20種類のL型アミノ酸とDNA)でできているそうだ。地球外生命が発見されれば、この仕組みが宇宙に普遍的かどうかを検証できる。

 仮に火星で生命が見つかったとする。その生命が地球上の生命と同じようなアミノ酸とDNAを持っていたら。人類の起源は隕石(いんせき)に乗って地球にやって来た火星生まれの生命とも考えられるという。

 「我々はどこから来たのか」の答えを探そうとするイマジネーションが、人類を宇宙へと駆り立てた原動力である、と著者は述べている。「宇宙人を夢想する人類自身も宇宙人である」。本書を読みながら、たとえばそんなふうに思考を広げてみてはどうだろう。

情報工場 エディター 安藤 奈々

情報工場 エディター 安藤 奈々

神奈川生まれ千葉育ち。早稲田大学第一文学部卒。翻訳会社でコーディネーターとして勤務した後、出版業界紙で広告営業および作家への取材・原稿執筆に従事。情報工場では主に女性向けコンテンツのライティング・編集を担当。1年半の育休から2017年4月に復帰。プライベートでは小説をよく読む。好きな作家は三浦しをん、梨木香歩、綿矢りさなど。ダッシュする喜びに目覚めた娘を追いかけ、疲弊する日々を送っている。

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2018年4月のブックレビュー

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