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今月の『押さえておきたい良書

『ぼくらの未来をつくる仕事』

ベンチャー経営者兼医師による“医療の未来”をひらく挑戦

『ぼくらの未来をつくる仕事』
豊田 剛一郎 著
かんき出版
2018/01 240p 1,400円(税別)

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 病院で風邪と診断されて抗生物質を処方される人は多いだろう。中には、自分から「抗生物質を出してください」と医師にお願いする人もいるかもしれない。

 だが、実は一般的な風邪に抗生物質は効果がないどころか、感染症の治療を困難にする「耐性菌」を生み出す可能性もあるのだという。2017年3月には厚生労働省から医療機関に対し、風邪に対する抗生物質の投与を控えるように、という手引書が出されている。

 これは一例だが、自分の身を危険にさらさないために、正しい医療の知識を身につけることの重要性が理解できるのではないだろうか。

 また、多くの人が医療知識を身につければ、治療を医師に「おまかせ」にすることがなくなったり、予防意識が高まったりもするだろう。そうすれば、社会問題でもある国全体の医療費増大の抑制にもつながる。

 それらの効果を狙ったオンラインのサービスを提供するのが、医療ITスタートアップのメドレーだ。本書『ぼくらの未来をつくる仕事』の著者、豊田剛一郎氏は同社の共同代表を務めるとともに、「代表取締役医師」という珍しい肩書を持つ。

 “珍しい”のは肩書だけではない。そのキャリアもだ。著者は病院勤務の脳神経外科医だった。国内で研修医を務めてから米国の病院に留学し、日米合計で3年半臨床医として活躍した後に帰国。それから戦略系コンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社する。その後、小学校時代からの知り合いであるメドレー創業者の瀧口浩平氏と意気投合し、同社に参画することになる。

 本書はそんな著者の経歴をたどりながら、その人柄や考え方、何をやろうとしているのかが理解できる1冊だ。

マッキンゼーで気づいた医療リテラシーの問題

 著者は臨床医として働く中で、日本の医療が抱える諸問題に気づき、その将来に危機感を覚えるようになった。そこで、“自分が”医療を変革することを決意し、臨床現場を離れる意志を固める。とくに、当時勤務していた病院の脳神経外科部長の、「患者を救う医者は私たちがいるから、豊田は医療を救う医者になりなさい」という言葉は、著者の背中を強く押した。

 マッキンゼーで医師とは異なる仕事をしていくなかで、改めて医療の特殊性や日本の医療の課題に気づく。その1つが、冒頭でも触れた「一般の人の医療に対する意識・知識(リテラシー)が不足している」という事実だった。

 “もっと多くの人が医療に対して知識を持ち、「自分ごと」として意識をすることで、議論が生まれ変わることがたくさんあるはずです。”(『ぼくらの未来をつくる仕事』p.153より)

「自分の名前で勝負する」ことを決意

 マッキンゼーで主にヘルスケア業界の戦略コンサルティングに従事していた著者は、メドレー代表の瀧口氏から共同代表就任の誘いを受ける。だが、1年半のコンサルタント経験しかなく、それまで人を率いたこともない著者は、初めは躊躇(ちゅうちょ)したそうだ。

 結局著者は、瀧口氏の「豊田には自分の名前で勝負してほしい」という言葉に強い刺激を受け、「自分こそが医療を変える」と、決意を新たにすることになる。

 著者はメドレーで、オンライン医療事典やオンライン診療アプリなどのユニークな医療サービスを次々に立ち上げていった。いずれも、医療リテラシーの不足をはじめとする日本の医療の課題の克服をめざすものだ。

 本書から一貫して伝わるのは、厳しい未来を座して待つのではなく、望ましい未来をつくるために“自分が動く”という著者の姿勢である。そこからは、業種や職種を問わない「リーダーとしてあるべき姿」も学べるのではないか。

情報工場 エディター 足達 健

情報工場 エディター 足達 健

兵庫県出身。一橋大学社会学部卒。幼少期の9年間をブラジルで過ごす。文系大学に行きながら、理系の社会人大学院で情報科学を学ぶという変わった経歴の持ち主。システムインテグレータを経て、外資系のクラウドソフトウェア企業でITコンサルティングサービスに携わる。1児(4歳)の父。「どんなに疲れていても毎日最低1時間は本を読む」がモットー。人工知能などのITの活用や仕事の生産性向上から、子どもの教育まで幅広い関心事項を持つ。

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