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2018年4月の『押さえておきたい良書

『困ったら、「分け方」を変えてみる。』

宅配ピザはどうしていつも「8等分」なのか

『困ったら、「分け方」を変えてみる。』
下地 寛也 著
サンマーク出版
2018/01 200p 1,400円(税別)

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 突然だが、Mサイズの宅配ピザを思い浮かべてほしい。さて、ピザはいくつのピースに分けられているだろうか。

 答えは「8」である。Mサイズでそれ以外の分け方をしている宅配ピザが果たしてあるのか、寡聞にして知らない。では、なぜ8等分なのか、考えたことはあるだろうか。

 本書『困ったら、「分け方」を変えてみる。』は、そんなふうに普段はあまり意識されない「分け方」について、いろいろ考えてみた、という本である。分け方を変えてみることで、問題解決の糸口が見えたり、斬新なアイデアが浮かんだりするような事例を豊富に取り上げ、解説を加えている。

 著者は、文房具やオフィス家具、事務機器の製造販売大手コクヨでワークスタイルコンサルタント、「コクヨの研修」スキルパークシニアトレーナーという肩書で活躍。同社では、主にオフィスの設計者として従事してきた。

 さて、宅配ピザの分け方だが、本書によると、8等分なのは「ちょうどいい」からだ。何にちょうどいいかというと、「切りやすさ」「食べやすさ」「カロリーのバランス」「見た目の美しさ」などだ。

 このように、何かの分け方を考える際には、複数の「ちょうどよさ」を検討してみると、うまくいきやすいのだ。

幕末の偉人も「分け方」を変えた

 分け方は、時代をも動かしてきたようだ。

“日本中が「藩」という分け方をベースに考えていた江戸時代に、坂本龍馬は、自分は「土佐藩」に所属しているのではなく「日本国」に所属しているのだと考えていた。このような人は既存の分け方にとらわれずに、新しい分け方のコンセプトを柔軟に提示していくことができる。”(『困ったら、「分け方」を変えてみる。』p.44より)

 改革者は、物事の前提となる分け方を変えることで、斬新な発想を生み出していたということだろう。

 本書では、中古書籍販売ブックオフ創業者・坂本孝氏の例も挙げている。坂本氏はそれまでの古本屋が行ってきた「本の希少性」による分け方を、「本がキレイかどうか」による分け方に変えた。

 それによってブックオフには希少性を判断する人材が必要なくなった。パートやアルバイトで店を回せることから、全国に店舗数を拡大していくことができたのだ。

乃木坂46が人気の理由とは

 マーケティングや商品開発にも、分け方を変える発想は大いに役立つのだという。

 スーパーやデパートの駐車場で、1台あたりの駐車スペースの大きさや配置が店によって異なるのにお気づきだろうか。

 台湾には日本でもおなじみのAデパートとBデパートがあり、前者の駐車スペースは幅が広く、後者は狭い。地元の人が言うには、高級車が止めやすいAデパートにはお金持ちが行きがちで、Bデパートには庶民客が多いそうだ。

 本書によると、駐車スペースをどんな幅で分けるかによって、来客の属性だけでなく、来客数も、客単価も変わるとのことだ。

 また、出版社デアゴスティーニによる、独自の分冊による販売方式は有名だ。テーマごとの事典や写真集、付録の模型などが少しずつ完成していく楽しみを提供し、人気を博している。

 AKB48や乃木坂46のようなアイドルグループも、分けることで魅力をつくった成功例といえる。メンバーによって分かれる特徴を覚えてもらったり、時々ユニットをつくって分け方を変えたりすることで、ファンを楽しませている。

 何か問題に突き当たったときや、商品の売り方に悩んだときなどには、「そうだ! 分け方を変えてみよう」と考えるクセをつけてみてはどうだろうか。本書には、その考え方のヒントが詰まっている。

情報工場 チーフエディター 吉川 清史

情報工場 チーフエディター 吉川 清史

東京都出身。早稲田大学第一文学部卒。出版社にて大学受験雑誌および書籍の編集に従事した後、広告代理店にて高等教育専門誌編集長に就任。2007年、創業間もない情報工場に参画。以来チーフエディターとしてSERENDIP、ひらめきブックレビューなどほぼすべての提供コンテンツの制作・編集に携わる。インディーズを中心とする音楽マニアでもあり、多忙の合間をぬって各地のライブハウスに出没。猫一匹とともに暮らす。

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2018年4月のブックレビュー

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