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2018年2月の『押さえておきたい良書

『江戸のCFO』

江戸時代に学ぶ、今求められるCFOの改革精神

『江戸のCFO』
大矢野 栄次 著
日本実業出版社
2017/11 216p 1,400円(税別)

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 株価が上昇する一方で、電機産業をはじめとする日本企業の苦境が伝えられることが多い。再建にあたっては各企業のCFO(最高財務責任者)の果たす役割が大きいのではないだろうか。

 日本史を振り返ると、江戸時代の「藩」が同様に苦境に陥っていたことが分かる。諸藩は幕府から財政負担を強いられ、莫大な借金と累積赤字に苦しんでいたという。

 しかし、藩政改革によって財政再建に成功したケースもある。そうした改革でリーダーシップを発揮した藩主や側近が、現代の企業でいうCFOに当たるのだろう。

 本書『江戸のCFO』では、久留米大学経済学部教授の著者が、代表的な藩政改革を取り上げ、その経緯や方法、CFOに当たる改革推進者5人の人物像に迫っている。登場するのは松代藩の恩田木工、米沢藩の上杉鷹山、備中松山藩の山田方谷、長州藩の村田清風、そして薩摩藩の調所広郷である。

参勤交代など幕府による「負担」が諸藩の財政を悪化させた

 徳川幕府は、自政権の安定のために諸藩に財政負担を強いて弱体化させる制度を設けていた。江戸と国元を定期的に往復する「参勤交代」と、幕府が必要とする大規模な土木工事などを藩が分担する「手伝い普請」だ。これらが諸藩の借金、累積赤字の主な原因となった。

 また、江戸時代には貨幣経済が発達したが、諸藩の財政基盤は米だった。藩は領地から年貢として集めた米をカネに換えて俸禄(ほうろく)として藩士に分配していた。貨幣流通量が増えると、物価が上昇する。一方米の値段はそれほど上がらない。新田開発などにより生産量が増加傾向にあったからだ。そのため藩士は困窮し、藩の財政も苦しくなる一方だったようだ。

 そうした状況に対する諸藩の財政健全化の策は、倹約令と増税以外めぼしいものがなかった。それらは消費を冷え込ませるなど、狙いが裏目に出て失敗するケースが多かった。

新規事業を推進し商人を後押しした村田清風

 長州藩(現在の山口県)では、第13代藩主毛利敬親によって家老と、財政を統括する「地江戸両仕組掛」に抜てきされた村田清風による財政再建が功を奏した。清風は厳しい歳出削減を実施する一方、米以外の新たな収益源の開拓を積極的に行った。

 当時、多くの藩は、特定の産物の生産・販売を藩が独占する「専売」事業を推進して収入を増やそうとすることが多かった。だが、これは藩が商人の既得権益を奪うやり方にすぎない。

 清風はまったく違うアプローチをとった。たとえば品質が良く、競争力がある「蝋(ろう)」の自由販売を商人に許可し、取引額に応じて課税した。既得権益を奪うのではなく、市場を自由化して商人の取引を活性化し、それにより利益を得るという方法を選んだのだ。

 さらに清風は「越荷方」という、今でいう商社事業も立ち上げた。「越荷」とは、日本海沿岸から下関を経由して大坂(今の大阪)に運び込まれた産物を指す。越荷方では、越荷を下関でいったん預かり、相場が有利なタイミングで大坂に運ぶ。そして藩はその手数料でもうけたのだ。

 本書では、こうした江戸のCFOたちの優れた改革のアイデアだけでなく、彼らが困難な状況にどのように立ち向かったかを知ることができる。現代企業のCFOも、本書に描かれた江戸のCFOたちの活躍を参考に、「攻めるCFO」を目指してみてはいかがだろうか。

情報工場 エディター 足達 健

情報工場 エディター 足達 健

兵庫県出身。一橋大学社会学部卒。幼少期の9年間をブラジルで過ごす。文系大学に行きながら、理系の社会人大学院で情報科学を学ぶという変わった経歴の持ち主。システムインテグレータを経て、外資系のクラウドソフトウェア企業でITコンサルティングサービスに携わる。1児(4歳)の父。「どんなに疲れていても毎日最低1時間は本を読む」がモットー。人工知能などのITの活用や仕事の生産性向上から、子どもの教育まで幅広い関心事項を持つ。

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2018年2月のブックレビュー

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