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2018年1月の『押さえておきたい良書

『日本電産 永守重信が社員に言い続けた仕事の勝ち方』

希代の経営者が説く「ガンバる」だけではない「働き方」

『日本電産 永守重信が社員に言い続けた仕事の勝ち方』
田村 賢司 著
日経BP社
2017/11 264p 1,500円(税別)

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 環境変化が激しいが故に先行きが不透明で、あらゆる物事が不確実な現代。しかもこうした状況はこれからますます顕著になると予想される。そんな時代だからこそ、企業経営や日々の業務には、流されない「芯」のようなものが必要ではなかろうか。

 その芯とは何か。その1つとして考えられるのは、人間の意志の力である。そして現役の日本の経営者でもっとも強い意志の力が感じられる1人が、日本電産の代表取締役会長兼社長(CEO)の永守重信氏と言って差し支えないだろう。

 本書『日本電産 永守重信が社員に言い続けた仕事の勝ち方』は、日本電産を1973年に創業し、世界トップクラスのモーターメーカーに育て上げた永守氏による“心を動かす”100の言葉を取り上げながら、その経営哲学と実践を読み解く1冊だ。現在『日経ビジネス』および『日経トップリーダー』の主任編集委員を務める著者は、20年余りにわたり永守氏を取材し、「永守経営」を見つめてきた。

「情熱・熱意・執念」が三大精神の1つ

 永守氏といえば、いわゆる「ガンバリズム」の人であり、その経営は体育会系の精神論を重視するものと見られがちだ。実際、「情熱・熱意・執念」「知的ハードワーキング」「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」を日本電産の三大精神として掲げている。

 だが、知的ハードワーキングの「知的」という言葉からもわかるように、永守氏が社員に求めるハードワークは、単にがむしゃらに長時間働くことではない。「小さなものの改善に効果がある。会社は常に変化がないといけない」という言葉も残しており、社員には細かいところにまで自らの発想による工夫を求める。正しいやり方をとことん考えた上で、そこに情熱・熱意を注ぎ込み、できるまで、執念深く取り組む。それが永守氏が理想とする働き方にほかならない。

 さらに、日本電産は現在「2020年に残業ゼロ」を掲げた働き方改革(=生産性改革)に取り組んでいる。2016年1月にスタートし、もうすでに残業時間の半減に成功しているという。永守氏の唱えるハードワークがイコール長時間労働ではないのは明らかだろう。社員の知的ハードワーキングは、最近では「生産性向上」に向けられているのだ。

「徹底して」無駄を見直す

 おそらく本書の中にもっとも頻繁に登場する単語は「徹底」だろう。著者は「日本電産の最大の強みの1つは昔も今も、物事に『徹底して』取り組むこと」であると指摘している。

 日本電産は、苦境に陥った会社のM&Aによる再生、その際に「Kプロ」「Mプロ」といった徹底したコスト削減策をとることでも知られる。Kプロは一般経費(人件費、材料費、外注費を除く)削減、Mプロは仕入れコスト引き下げのための手法だ。

 Kプロでは、事務用品費、光熱費、出張費、物流費、交際費などをゼロから見直す。買収した先の会社では、まず社員全員分の机の引き出しにある文房具を1カ所に集めさせたそうだ。するとボールペンが1,000本以上集まるなど、無駄が「見える化」する。
 さらに、社員に無駄削減のアイデアを募集する。すると「トイレでの水の2度流し禁止」といった“徹底した”アイデアが集まる。

 こうしたアイデア募集からも、永守氏の経営が頑強なトップダウンではないことがわかる。むしろ他社より柔軟性が高いのではないだろうか。先の三大精神さえ守れば、あとは自由に自分の頭を使って仕事に取り組むべきとされる。そんなバランス感覚も、本書から読み取れる永守経営の魅力の1つに相違ない。

情報工場 チーフエディター 吉川 清史

情報工場 チーフエディター 吉川 清史

東京都出身。早稲田大学第一文学部卒。出版社にて大学受験雑誌および書籍の編集に従事した後、広告代理店にて高等教育専門誌編集長に就任。2007年、創業間もない情報工場に参画。以来チーフエディターとしてSERENDIP、ひらめきブックレビューなどほぼすべての提供コンテンツの制作・編集に携わる。インディーズを中心とする音楽マニアでもあり、多忙の合間をぬって各地のライブハウスに出没。猫一匹とともに暮らす。

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2018年1月のブックレビュー

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