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今月の『押さえておきたい良書

『こわいもの知らずの病理学講義』

軽妙トークで「病気」の正体が丸わかり!

『こわいもの知らずの病理学講義』
仲野 徹 著
晶文社
2017/09 376p 1,850円(税別)

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 人は一生のうち何度も、「病気」にかかる。軽い風邪からがんのような死に至る病まで、人によってその重篤さやかかるタイミング、回数はもちろん異なる。だが、健康維持のために、病気についてある程度の知識は、年齢や境遇を問わず必要だろう。

 本書『こわいもの知らずの病理学講義』は、病気になるメカニズムを解き明かす学問である「病理学」のエッセンスを解説する1冊だ。著者いわく、「近所のおっちゃんやおばちゃん」に読んでもらうつもりで、ユーモラスな“脱線”も交え、わかりやすく書かれている。

 著者は大阪大学大学院医学系研究科教授。本書は、著者が担当する医学部生対象の人気授業「病理学総論」の内容を書籍化したものだ。この講義でも使われている病理学の“定番”テキスト『ロビンス基礎病理学』全24章のうち「細胞の損傷、適応、死」「血行動態の異常、血栓症、ショック」「腫瘍」の3章の内容が取り上げられている。

細胞が傷むことで人は病気になる

 私たちの体は数十兆個の細胞でできているという。著者の表現では、細胞たちは「かなりの頑張り屋さん」であり、日々いろいろなストレスにさらされてもけなげに適応して生きている。一つひとつが大きくなったり、数を増やしたり、小さくなったり、時には姿かたちを変えたりする。

 しかし、負荷がかかりすぎたりして、細胞が傷むことがある。それが、人が「病気になる」ことだと、著者は説明する。細胞損傷の原因は、細菌やウイルスの感染、自己免疫(自分自身の細胞を誤って異物と認識し攻撃してしまうこと)、遺伝的異常、老化、放射線など多種多様だ。なかでも低酸素、すなわち酸素が不足するのがもっとも重大だという。呼吸、そして心臓が止まり血液が体内に行き渡らなくなると、すべての細胞が低酸素状態になる。そうなると全細胞が死に至り、命が消える。

 著者の説明はここで突然、脱線。話題は「ギロチン」に飛ぶ。

“フランス革命の頃、他の処刑法よりも苦痛が少ない、という理由で採用されたのが、ご存じギロチンです。重い刃がざっと落ちて、クビがぽろり。さて、意識は何秒もつのでしょう? 頭が胴体から離れても、すぐに脳細胞が死んでしまうわけはないので、その瞬間に脳の活動がストップしてしまうようなことはないはずです。”(『こわいもの知らずの病理学講義』p.51より)

遺伝子の突然変異ががん発生の原因

 病の「皇帝」ともいえるのが、がんである。本書では、がんについて多くのページを割き、その理解の前提となる分子生物学の基礎知識から、最新のプレシジョンメディシン(精密医療)、AI(人工知能)の活用にまで言及する。

 細胞はストレスなどに適応して増殖することがあるが、その時に異常に増えすぎて塊をつくると、その塊が「腫瘍」となる。腫瘍には健康に害を及ぼさない良性腫瘍と、転移し体をむしばむ悪性腫瘍があり、後者ががんと呼ばれる。

 がんは、突然変異した遺伝子(がん遺伝子)の働きで発生する。がん細胞のゲノム(全遺伝情報)を調べてどの遺伝子に変異があるかを見つけるのが、がんのプレシジョンメディシン。近年では、そういったゲノム解析にAIが用いられ、成果を上げているのだ。

 孫子の兵法の有名な言葉に「彼(かれ)を知り己(おのれ)を知れば百戦殆(あや)うからず」がある。この中の「彼」を病気、「己」を自分の体に置き換えてみたらどうだろう。本書で病気と自分の体についてよく知ることは、「百戦」=人生のリスクヘッジになるはずだ。

情報工場 チーフエディター 吉川 清史

情報工場 チーフエディター 吉川 清史

東京都出身。早稲田大学第一文学部卒。出版社にて大学受験雑誌および書籍の編集に従事した後、広告代理店にて高等教育専門誌編集長に就任。2007年、創業間もない情報工場に参画。以来チーフエディターとしてSERENDIP、ひらめきブックレビューなどほぼすべての提供コンテンツの制作・編集に携わる。インディーズを中心とする音楽マニアでもあり、多忙の合間をぬって各地のライブハウスに出没。猫一匹とともに暮らす。

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