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2017年12月の『押さえておきたい良書

『捨て猫に拾われた男』-猫背の背中に教えられた生き方のヒント

猫の「爪痕」に学ぶ「生き方」のヒント

『捨て猫に拾われた男』
 -猫背の背中に教えられた生き方のヒント
梅田 悟司 著
日本経済新聞出版社
2017/09 224p 1,200円(税別)

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 動物好きな人、ペットを飼っている人、飼ったことがある人は、大きく犬派と猫派に分かれる。どちらであるかによってその人の性格や生活信条、ものの考え方が多少なりとも異なるのではないだろうか。

 本書『捨て猫に拾われた男』の著者、梅田悟司さんは、「生まれながらの犬派」だったそうだ。だが、奥さんに請われて一緒に猫の里親会(保護された捨て猫や被災猫の里親を探すための会)に出かけ、そこで1匹の黒猫と目が合った瞬間が梅田さんの人生を変えた。「一緒に暮らしてやっても、いいぞ」。梅田さんの耳にそんな声が聞こえたのだという。

 本書は、そうやって一緒に暮らすことになり、「大吉」と命名された猫との生活や、その生活から学んだことをつづった1冊。誰にこびることもない、自由奔放な大吉の生き方から、日々の暮らしや仕事、自己実現などの面で、梅田さんはさまざまなことに気づく。そうして肩肘張った生き方から「救われ」ていったのだ。座右の銘は「神は細部に宿る」から「すべては大した問題じゃない」に変わった。

 梅田さんはコピーライター、コンセプターとして広告業界で活躍。ベストセラー『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版社)の著者であり、広告制作ではカンヌ広告賞、レッドドット賞、ギャラクシー賞など国内外で30以上の賞を受けている。

「自分らしさ」という爪痕を残せ

 猫を飼う人が避けて通れないのが「爪痕問題」だ。猫は、まったく遠慮することなく、いたる所に鋭い爪を立て、痕を残す。人の肌も例外ではない。同居人(飼い主)の体は、他人から「どうしたの?」と心配されるくらい傷だらけになりがちだ。

 梅田さん夫婦も、もちろん同じ目にあっている。でも嫌がったり、こっぴどく叱りつけたりはしない。そのかわり、こんなことを言っている。

“僕たち人間は「所有物、特に家や車などの高級なものには、なるべく傷を付けたくない」と思いながら生きているように感じられる。つまり、モノを大事にすること=傷付けないように丁寧に扱うこと、と捉えてしまっているのだ。
 どちらが正しいということではないのだが、使い倒しながら、爪痕を付けながら愛着を育てている大吉の振る舞いのほうが、ごく自然であるように感じられる。”(『捨て猫に拾われた男』p.96より)

 所有物だけではない。仕事もそう。私たちは得てして無事に、無難に、誰からも否定されないように仕事をしようとする。しかし大吉は教えてくれるのだ。「自分なりに力を出し切って、『自分らしさ』という爪痕を残してみな。それが、生きるということさ」と。

人生のトクになる「やってもらう技術」

 飼い猫、とくに室内猫は、自分の身の回りのことを何でも同居人にやってもらわなければならない。でも、ご飯や水をもらっても、トイレの始末をしてもらっても、「申し訳ない」とか「恐縮です」とか言わない(当たり前だ)し、そんな様子をみじんも見せない。世話をするほうも「まったく、僕がいなければダメなんだから」とかつぶやきながら、喜んでお世話をする。

 梅田さんがそんな大吉から学んだのは「やってもらう技術」だ。仕事でも日常生活でも、あえて低姿勢でできないふりをし、相手に心地のいい義務感を持ってもらうようにする。そして、きちんと、大げさなほどの表現で感謝の意を伝える。そうすれば、その後も自分のトクになるようなことをしてもらえるし、相手と親密な関係を築ける。

 本書からは、のほほんとしたぬくもりと「気づき」に満ちた生活の空気を、かわいいイラストとともに味わうことができる。すでに猫と一緒に暮らしている人は共感をもって楽しく読めるはずだ。一緒に暮らしていない人は……、ネットで里親会の情報を探し始めるかもしれない。

情報工場 チーフエディター 吉川 清史

情報工場 チーフエディター 吉川 清史

東京都出身。早稲田大学第一文学部卒。出版社にて大学受験雑誌および書籍の編集に従事した後、広告代理店にて高等教育専門誌編集長に就任。2007年、創業間もない情報工場に参画。以来チーフエディターとしてSERENDIP、ひらめきブックレビューなどほぼすべての提供コンテンツの制作・編集に携わる。インディーズを中心とする音楽マニアでもあり、多忙の合間をぬって各地のライブハウスに出没。猫一匹とともに暮らす。

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2017年12月のブックレビュー

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