2017年12月の『押さえておきたい良書』
「働き方改革」でいかに生産性を上げるかの議論が盛んだ。そこでは社員の残業を減らす、無駄な会議をなくすなど、現場の個人にフォーカスが当てられることが多い。だが、それだけではなかなか効果が上がらないのではないか。組織全体の生産性を上げるマネジメント手法にも注目する必要があるだろう。
その際に重要な示唆を与えてくれるのが本書『TIME TALENT ENERGY』だ。多数のグローバル企業の組織的監査や経営幹部へ独自のアンケート調査を実施。その結果などをもとに、組織の生産性向上の鍵となる経営資源を「時間(TIME)」「人材(TALENT)」「意欲(ENERGY)」の3つに見出し、それぞれについて最適なマネジメントの手法を提案している。
著者の2人はともに、米国の有力コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーのパートナー。マイケル・マンキンス氏は組織戦略の策定、エリック・ガートン氏は組織デザインや企業統合などのプロジェクトを手がけている。
Aクラス人材を最重要部門に集中させる
3つの経営資源のうち、企業の生産性を最大に高める鍵となるのはどれだろうか。著者らの分析によると、それは2番目の人材(TALENT)であり、その適切な配置だ。優良企業は有能な社員、すなわち「Aクラス人材(その業界や分野において非常に優秀とされる人材)」をきわめて戦略的に配置しているのだ。
著者らの調査では、優良企業と普通の企業がそれぞれ有するAクラス人材の比率は、ほぼ同じだった。だが、普通の企業はあらゆる部門に満遍なくAクラス人材を配置していたのに対し、優良企業では「1点集中型」の配置がとられる傾向があった。どこに集中していたのか。それは自社の事業全体の成否を左右する最重要職務を担当する部門だった。
本書では、Aクラス人材は単なる優秀な社員ではなく、競争力の源泉となる「ディファレンスメーカー」に位置づけられている。
鍵となる「行動特性」は各企業で異なる
ディファレンスメーカーは組織の中にわずかしかいない。では、それぞれの社員がディファレンスメーカーであるかどうかを、どのように見極めればよいのだろうか。著者らは、分析の結果、「行動特性」「学習速度」「協調的知性」「これまでの足跡」という4つの指標を見いだしている。
このうち行動特性は、企業によって求められるものが異なるので注意が必要だ。たとえばグーグルの場合「ビジネスセンスがあり、データを重視し、テクノロジーに精通したパワーユーザーで、独創的なエネルギーと自ら手を動かして行動する傾向が強い」との行動特性を持つ人材がディファレンスメーカーとなる。
有能な人材(TALENT)だけでなく、時間(TIME)も意欲(ENERGY)も、各企業にふんだんにある資源ではない。それらの希少資源をいかに戦略的に見いだし、生かしていくか。確かなデータをもとにした説得力のある本書の分析は、企業経営者だけでなく、チームマネジメントに取り組むグループリーダー、ひいては働き方を考える個人にも大きなヒントを与えてくれるはずだ。
情報工場 エディター 安藤 奈々
神奈川生まれ千葉育ち。早稲田大学第一文学部卒。翻訳会社でコーディネーターとして勤務した後、出版業界紙で広告営業および作家への取材・原稿執筆に従事。情報工場では主に女性向けコンテンツのライティング・編集を担当。1年半の育休から2017年4月に復帰。プライベートでは小説をよく読む。好きな作家は三浦しをん、梨木香歩、綿矢りさなど。ダッシュする喜びに目覚めた娘を追いかけ、疲弊する日々を送っている。