2017年11月の『押さえておきたい良書』
さまざまな民族や人種が集まる「メルティング・ポット」と称される米国。世界有数の大都市ニューヨーク(NY)はその象徴であり、多様な価値観や生き方が交わることが街のエネルギーとなっているようだ。
そのNYで活躍する日本人は、今では珍しくない。本書『最善の結果を出す最強コミュニケーション 念のため思考』の著者、徳升笑子さんもその一人だ。
徳升さんはNYを拠点に活動を続けるイベント・フローラル・デザイナー。結婚式をはじめとする大小のイベントにおいて、フラワーアレンジメントを中心とした空間プロデュースを行うのが主な仕事だ。1996年にNYでProfessional Floral Designの資格を取得。それ以来、この街ならではの世界レベルの“セレブ”を含むコスモポリタン(国際人)たちと一緒に仕事をしてきた中で身に付けたのが、自身で「念のため思考」と名づける成功法則である。
本書では、その、日本人ならではの感性とNYで磨かれたスキルや行動様式を組み合わせた念のため思考を詳細に解説。それを使ったコミュニケーション、身に付けるための「10の習慣」など実践方法も提示している。
どんな課題でも最善の結果に導くメソッド
「念のため」という言葉から、念のため思考を「念には念を入れてしっかり準備すること」とイメージする人も多いかもしれない。だが、徳升さんが言うには、念のため思考はもっと広い概念を含む法則だ。自身は「どんな課題でも最善の結果に導くメソッド」と表現する。
「成功に結びつくことだけを厳選して実行する」というのが、念のため思考の極意なのだという。徳升さんは、上記引用のような「厳選した準備」のほか、「複数のプラン」「自信のマインドセット」「信頼のマインドセット」「自分軸」「ゴール設定」「成功までやり遂げる」という全部で7つの、念のため思考の要素を挙げている。
「サングラス・パーティー」の機転
上記の要素を統合し、どんな状況でも、成功までやり遂げる。それが、イベント・フローラル・デザイナーという「一度きり」で、失敗が許されない現場での仕事から生まれた念のため思考の真髄なのだという。その点で、「これぞ念のため思考だ!」と徳升さんが振り返るのが、以下の“サングラス事件”である。
ある時、徳升さんはNY在住のゲイカップルのウェディングパーティーの演出を担当した。提案したのは、1,500個のサングラスを使ってシャンデリアを作るという、奇抜で斬新なアイデアだった。
ところが、パーティーが始まる直前、スタッフの不注意でシャンデリアが床に落ちてしまう。せっかくのパーティーが台無しになるところだったが、そこで念のため思考が発揮される。
徳升さんは、床に散らばったサングラスを拾い集め、会場の入り口で来場者に配り始めた。とっさに、集う皆がサングラスをかける「サングラス・パーティー」に変更したのである。
シャンデリアの落下はさすがに想定していなかったそうだが、「自信のマインドセット」があったが故に落ち着いて対応に当たることができた。協力して対処してくれる仲間への「信頼のマインドセット」もあった。また、この時の「ゴール設定」はシャンデリアを飾ることではなかった。パーティーを成功させることだった。それを再確認できたために、「成功までやり遂げる」ことができた。また、それまでの念のため思考の蓄積が、瞬時のアイデアの引き出しを増やしていたのだろう。
本書では、図や箇条書きなどを駆使しながら、実に分かりやすく、実践的な成功法則が解説されている。この丁寧さも、徳升さんの念のため思考のたまものなのだろう。
情報工場 チーフエディター 吉川 清史
東京都出身。早稲田大学第一文学部卒。出版社にて大学受験雑誌および書籍の編集に従事した後、広告代理店にて高等教育専門誌編集長に就任。2007年、創業間もない情報工場に参画。以来チーフエディターとしてSERENDIP、ひらめきブックレビューなどほぼすべての提供コンテンツの制作・編集に携わる。インディーズを中心とする音楽マニアでもあり、多忙の合間をぬって各地のライブハウスに出没。猫一匹とともに暮らす。