2017年10月の『押さえておきたい良書』
最近ではAI(人工知能)の進化とセットのように論じられることの多い「テクノロジー失業」。AIやロボットが人間の仕事を奪うという問題だ。しかし、実際に私たちはどれくらいの現実感や危機感を持っているのだろうか。
これに関して本書『仕事消滅』では、たとえば次のような近未来予測をする。
「2025年、日本国内の123万人のドライバーが失業する」
「2030年代、ノーベル物理学賞はAIしか受賞できなくなる」
「2035年ごろ、経営者、医者、クリエイターがAIに置き換えられる」
「2045~50年ごろ、人間とほぼ同じ能力を持つAI搭載ロボットが実用化。人類の9割が失業する危機に直面する」
著者によれば、まずは人間にしかできないと思われていた高度な頭脳労働がAIに置き換えられていく。そしてそれが一通り進行したのち、人間特有の繊細な手や体の動きが要求されていた肉体労働もAI(とそれを搭載したロボット)の担当領域に入る。
その結果、大規模なテクノロジー失業が引き起こされる。本書では、そうした社会の変化を経済学の観点から考察。その上でどのような対策をとればいいかを具体的に提案している。
著者は元ボストンコンサルティンググループの経営戦略コンサルタント。著書にベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)などがある。
半数が失業しても数字上の経済は「順調」
たとえば近未来に人類の仕事の約半分がAIに置き換えられたとする。経済はどうなるか。著者は以下のように述べている。
(中略)
すると国民の1%は富裕層、49%は中流層、そして50%は仕事がなく政府からの補助金に頼って生きる貧困層という社会が生まれる。”(『仕事消滅』p.132より)
半数の人間が貧困層になるが、経済は見かけ上「順調」となる。なぜなら、AIを利用することで莫大な利益をあげた富裕層がこれまで以上にぜいたくをすると考えられるからだ。すなわち、格差は助長されるものの、各国のGDPは現在と同水準となるというのが著者の予想だ。
「AIに給料を支払う」という秘策
しかし、いくら数字上の経済が順調でも、失業者があふれ、格差が広がる社会は「人類の幸福」とはほど遠い。そこで著者はいくつかの解決策を提示しているのだが、その一つが「AIとロボットに給料を支払う」というアイデアだ。
現在、おそらく誰もが(システムの導入コストやランニングコストは別にして)AIを「タダ働き」させるのが当然だと考えている。しかし、人間と同等の能力を持つようになったAIには、人間と同じように労働対価としての報酬を与えるべきだと考えてもいいだろう。雇用者側からすれば、AIに仕事をさせるのにもコストがかかるのであれば、AIではなく人間を雇用するという選択の余地も生まれることになる。
AIに支払われた給料は国がいったん集めて国民に再分配する。そうすれば、AIの働きによって国民の収入が減ることもなくなる、というのが著者の論理だ。
人類とAIが共存する未来が避けられないのであれば、私たちはもっと現実感を持ってこの問題に向き合う必要があるだろう。本書はそのきっかけにもなる一冊だ。(担当:情報工場 安藤奈々)