2017年10月の『押さえておきたい良書』
驚異的なスピードで進化を続けるAI(人工知能)。それについて語る際、最近では「シンギュラリティー」という言葉がついて回るようになってきた。「技術的特異点」と訳されるこの言葉にはいろいろな解釈がある。その一つが、AIが人間の脳のすべての機能を代替し、かつその能力を拡大すること、それによって人類文明に大変革が起こる時点、というものだ。
では、シンギュラリティーを迎えた世界は、どのような変化を遂げるのか。テクノロジーと人間、宗教について考察した上で、その答えを大胆に予測するのが本書『AIが神になる日』だ。AIが究極的に進化し、とてつもない能力を示すようになることを前提に、近未来の政治や社会、経済、科学技術、宗教において、その役割を考察している。
本書で描かれる未来では、人間では解決できない政治や社会、経済などの難問題をAIが判断する。人間はそれに従うことで、安心で安全、平和な暮らしを手に入れることができる。AIが神のような存在になるという、驚くべき未来像だ。
ただしAIは「人間が設定できる」神でもある。その設定に悪意が入り込めば、人類は破滅にも向かいかねない。そうならないためにどうすべきかについても本書は言及している。
著者はジャパン・リンク代表取締役社長、ソフトバンクのシニア・アドバイザー。伊藤忠、クアルコム、ソフトバンクモバイルでも第一線で活躍した。現在はコンサルタントとして世界を舞台に活動中だ。
AIならば本来の「民主主義」を実現できる
著者が、AIが神にふさわしいと考える根拠の一つに、AIが、“人間的”な先入観や差別意識、保身感情などを持たないことがある。AIが政治を担えば、これらを持った為政者に本来の民主主義がゆがめられるのを防げるというわけだ。
AIはいくつかの政策を選択肢として提示し、そのそれぞれが短期的および長期的にどのような結果をもたらすかを、具体的な数字で予測することができます。(中略)
また、AIは、政策ごとに、どういう人たちが利益を得、どういう人たちが不利益を受けるかも分析し、それぞれの人口と掛け合わせて「最大多数の最大幸福モデル」を割り出します。”(『AIが神になる日』p.104より)
AIを「悪魔にしない」のが人類の責務
人類を滅ぼす「悪魔」とならないように、AIにあらかじめ「正しい信念」を埋め込まなければならない。著者は、そうした共通認識が広まり国際的に協調して取り組むことが、シンギュラリティー時代を迎える人類の責務だと強調している。
著者の描く少々刺激的な未来予測と、それを是とする姿勢には賛否があるだろう。この通りになるかどうかは誰にもわからない。だが、本書を読み、「人間とは」「テクノロジーとは」「宗教とは」「哲学・倫理とは」といった簡単に答えの出ない問いに考えを巡らせることには意味がある。一人ひとりがそうすることで、より良い未来が形づくられていくはずだからだ。(担当:情報工場 安藤奈々)