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今月の『押さえておきたい良書

『【小さな会社】逆襲の広報PR術』

会社や商品を効果的に目立たせる、とっておきのやり方

『【小さな会社】逆襲の広報PR術』
野澤 直人 著
すばる舎
2017/06 296p 2,200円(税別)

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 新聞や雑誌で取り上げられた商品を見て「これいいな。お店で探してみようかな」などと思ったことがある人は多いだろう。その時、ページの隅に「PR」という文字が入っているかどうか、確かめてみてほしい。もし入っていたら、その記事は、企業がお金を払っている「広告」ということになる。

 「PR」の文字がない、すなわち広告ではない純粋な記事の場合、取材するネタ元を編集者(または記者)が探すケースと、企業サイドからの働きかけに応じて取り上げる場合がある。後者の企業による働きかけを「広報PR」と呼ぶことがある。

 本書『【小さな会社】逆襲の広報PR術』は、その広報PR、すなわち新聞・雑誌、ウェブサイト、テレビ番組などのメディアに無料で取材してもらうための、企業側の働きかけについて書かれた本である。とくに中小・中堅企業、ベンチャー企業など「小さな会社」に向けて、広報PRとは何か、どういう効果があるか、そして具体的ノウハウについて解説している。

 著者は、株式会社ベンチャー広報代表取締役、株式会社ガイアックス執行役。ベンチャー広報は著者が2010年に立ち上げた中小・ベンチャー企業に特化したPR会社だ。著者にはビジネス誌の編集責任者としての経験もあり、メディア側の思考や感覚を踏まえた解説も、本書の特長の一つといえる。

広報PRには社員のモチベーションを上げる効果も

 冒頭に挙げたような、商品の魅力を伝えてもらい売り上げに結びつけるのを目的とした広報PRは「マーケティングPR」と呼ばれる。本書がテーマとするのは、もっと広い意味を持つものだ。「経営戦略としての広報PR」である。

 全国紙やキー局のテレビ番組など、社会的評価の確かな媒体で自社の商品が露出すれば、その商品だけでなく会社そのものも信用されやすい。それゆえ、まだ知名度が低い「小さな会社」のブランディング戦略にこそ、広報PRは役立つ。

 社内向けの効果もある。たとえば、小さな会社が広報PRの結果、取材を受け雑誌に社長インタビューが載ったとする。すると社員は「自分の会社が第三者からも認められた」と感じる。家族に改めて認められるかもしれない。そうすれば、自分の会社に誇りを持つ社員も多くなり、全体のモチベーションもアップするはずだ。

プレスリリースの一斉送信は「小さな会社」ではNG

 著者は、ちまたに出回っている広報PRのノウハウのほとんどは大企業向けであると指摘する。ところが小さな会社の広報PRは、大企業のそれとは大きく異なるのだという。

 たとえば、できるだけたくさんの媒体にプレスリリースを一斉送信するのは小さな会社ではNG。主要なメディアには毎日膨大なプレスリリースが送られてくる。その中で目に留まるのは至難の業だからだ。

 とくに報道記者は、「特オチ」といって、他社ではどこでも扱っているビッグニュースを自社で落とすことを極端に嫌う。それゆえ彼らは、大企業のプレスリリースは見逃さないようにしている。しかし、それ以外のよく知らない会社からのプレスリリースは、忙しい彼らにとっては迷惑メールのようなものなのだ。

 小さな会社の広報PR担当者は、自社に興味・関心を持つ可能性のあるマスコミ関係者を探し、リストアップした順に電話していく。アポイントがとれたら面談して、情報提供や取材依頼をしていく。

 広報PRを成功させる最大のコツは、メディア側の立場になってみることだろう。「相手が忙しいタイミングを避ける」「事前に媒体には目を通しておく」といった常識的なことを再確認するのが重要なのだ。

 このように本書は、小さな会社の広報担当者や経営者にとっては、すぐにでも役立つ実践的な内容になっている。また、メディア別の攻略法も詳しく書かれており、そこから各メディアにおける業界ルールなどを知ることもできる。業界の裏側を垣間見られるという点でも、興味深い一冊といえるだろう。(担当:情報工場 吉川清史)

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