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2017年7月の『押さえておきたい良書

『デービッド・アトキンソン 日本再生は、生産性向上しかない!』

前例主義、変化アレルギーの日本をどう再生すればよいか

『デービッド・アトキンソン 日本再生は、生産性向上しかない!』
デービッド・アトキンソン 著
飛鳥新社
2017/05 232p 1,296円(税別)

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 近年、生産性をめぐる議論が盛んだ。勤勉で働き者を自負していた日本人が、実は国際比較では生産性が低いという事実が知られてきたからだろう。生産性は、国民1人当たりのGDPで測られることが多いが、2016年のIMF(国際通貨基金)のデータをもとに算出すると、日本は30位になる(購買力平価を用いて物価や為替の違いを調整した数値を比較)。GDPでは世界第3位の経済大国にも関わらず、だ。

 本書『デービッド・アトキンソン 日本再生は、生産性向上しかない!』は、1990年代から日本に居住しビジネスを行う著者が、さまざまなエピソードを交えながら、日本人はなぜ生産性が低いのかを分析。それを改善し、GDPそのものを成長させるための施策として観光産業の改革を提言する。

 著者のデービッド・アトキンソン氏は、漆(うるし)塗りなどによる文化財の修繕と補修を業務とする小西美術工藝社代表取締役社長。英国生まれで、オックスフォード大学で日本学を専攻。1992年にゴールドマン・サックスに入社し、アナリストとして当時あまり認識されていなかった日本の銀行の不良債権問題を指摘し、注目を集めた。現在は、ベストセラーを含む多数の著書などで、観光振興、伝統文化財をめぐる行政や業界へ改革提言などを続けている。

真摯に受け止めるべき辛口の日本人批判

 「前例がなければ動かない」「現状を変えることへのアレルギー」「ことなかれ主義」「論理的思考が苦手」。これらは、本書にある日本人に対する著者の批判だ。辛口で手厳しいが、いずれも納得がいくものばかりであり、貴重な指摘として真摯に受け止めるべきだろう。そしてこれらが日本人の生産性の低さにもつながっているのだという。

 生産性向上のためには、これまでのやり方を変えなければならない。しかし、前例がなければ動かず、変えること自体にアレルギーがあるのでは、生産性向上などとても望めないということだ。

 こうしたアレルギーの原因を、著者は日本の高度経済成長期に求めている。著者によれば、日本が高度経済成長を実現できたのは、ベビーブームによる急激な人口増のおかげだ。1人当たりのGDPが変わらなければ、当然人口が多い方がGDPは大きくなる。また、日本は第2次世界大戦で深刻なダメージを受けており、そこから復興し元に戻すだけで、成長率が高くなった。

 つまり、日本は経済成長する条件に恵まれていた。戦後に限って言えば、他国のように革命を起こして既存のやり方を変えることをしなくても、ひたすら復興の努力をするだけで成長できた。こうした「変えなくてもうまくいった」経験が、変化へのアレルギーを生み出したというのが著者の分析である。

富裕層をはじめとする「多様性」への対応がカギ

 著者は、観光立国の条件として「自然」「気候」「文化」「食事」を挙げ、日本はこの四つがいずれも高い水準にある、世界でも希有の国であるとしている。ただ、それらの「観光客の目線に合わせた整備」ができていないと主張する。

 観光面の整備にあたってもっとも大事なポイントは「多様性」だとする。訪日外国人は国籍や階層が多様であり、多様なニーズをもっている。それを踏まえた改革をすべきだというのだ。

 とりわけ著者が強く主張するのが富裕層への対応だ。1泊何百万円もする超高級ホテルがあってもいい、いや、なければならない、とする。富裕層に向けたIR(カジノを中心とする統合型リゾート)も積極的に導入すべきだ、という意見も持っている。

 本書の指摘や主張は、3年後に迫った東京五輪に備え、私たちが何をすべきか、どのように考え方を変えなければならないか、重要な示唆を与えてくれるものといえる。(担当:情報工場 吉川清史)

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2017年7月のブックレビュー

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