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2017年7月の『視野を広げる必読書

『フォース・ターニング【第四の節目】』-アメリカの今ここにある危機は予言されていた!

20年前にトランプ政権誕生を予言した? 世界の大変革を警告する「80年周期説」とは

『フォース・ターニング【第四の節目】』
 -アメリカの今ここにある危機は予言されていた!
ウィリアム・ストラウス/ニール・ハウ 著
奥山 真司 監訳
森 孝夫 訳
ビジネス社
2017/03 319p 2,000円(税別)

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歴史には四季のような「四つの節目」があった

 家庭菜園を始めて今年で5年目になる。何種類かの野菜を育てると、それぞれがよく育つ栽培適期がわかってきて面白い。

 野菜作りには春夏秋冬の周期がある。私は長野県で暮らしているが、都会よりも季節ごとの気候の変化が大きいように感じる。だから、季節を意識して種まきや収穫、手入れをしていかないと、野菜はうまく育たないのだ。また、冬の間は育てられる野菜が少ない。もっぱら次の春を迎える準備に多くの時間を費やすことになる。

 近代国家の産業の中心は、農業を中心とする第1次産業から、工業などの第2次産業やサービス業などの第3次産業にシフトしている。業種にもよるが、第2次・第3次産業では自然の影響は受けにくい。それゆえに、農業のように四季の周期に合わせて仕事をするケースは少ない。

 第2次、第3次産業は、基本的に「線的(リニア)」に動く。売り上げなどは右肩上がりか横ばい、もしくは右肩下がりで推移し、後戻りしたり、最初に返ったりはしない。

 ところが、現代でも、人間の社会を総体的に見ると、線的に発展するのではなく、四季のように循環しているのではないか、という理論がある。それが書かれているのが本書『フォース・ターニング【第四の節目】』だ。

 本書によれば、アメリカの歴史にはおよそ80年という周期があり、循環しながら変化しているのだという。そしてその一つひとつの周期は、春夏秋冬にあたる四つの節目(ターニング)で構成されるというのだ。

 著者のウィリアム・ストラウス氏とニール・ハウ氏は、ワシントンDC周辺で長くコンサルタントをしていた。四季のような歴史の節目とはいったいどのようなものなのか。また著者の2人は、未来の世界をいかに予測しているのだろうか。

独立戦争、南北戦争、第2次世界大戦……、80年ごとにアメリカを襲った「危機」

 著者らは、イギリス系アメリカ人(Anglo-American)社会の過去500年ほどの近代史を分析。その結果発見したのが、大きな戦争を伴う社会的な「危機」がおよそ80年の周期で訪れており、それぞれの危機の後にアメリカの国や社会が大きく変化していることだった。

 たとえば、アメリカは第2次世界大戦という危機を迎えたが勝利し、超大国へと歩み始めた。その約80年前には南北戦争という危機があり、それをきっかけに奴隷制を廃止、平等な市民権を原則とする産業国家に生まれ変わっている。さらにそのおよそ80年前にはアメリカ独立戦争があった。

 本書では、これらそれぞれの80年周期の間の出来事や時代の趨勢(すうせい)を分析し、80年を約20年ずつに分け、「高揚」「覚醒」「分解」「危機」という、それぞれ特徴のある四つの期間(節目)を設定している。

 第一の節目(ファースト・ターニング)である高揚は春に相当する。この時期には、その前にあった危機を乗り越えた新しい社会秩序が浸透し、確立する。

 第二の節目(セカンド・ターニング)、覚醒は夏にあたる。この時期には、ファースト・ターニングの間に生まれた戦争を知らない世代が成人し、新たな価値観を持つようになる。そして、ファースト・ターニングで確立した社会秩序を攻撃し始めるのだという。

 第三の節目(サード・ターニング)では、上昇的な機運が一転して下降へと転じる。秋に相当する分解の時期だ。第一の節目に確立した社会秩序が崩壊し出し、その代わりにセカンド・ターニングに登場した新しい価値観が浸透し始める。

 そして第四の節目(フォース・ターニング)だ。冬が到来し、危機を迎える。ここで、古い価値観は新しいものに完全に置き換えられる。

 こうしてフォース・ターニングの約20年が終わると一つの周期が完了、次の周期が始まるのだ。

 つまり、セカンド・ターニングに生まれた新たな価値観は、サード・ターニングを通して浸透してゆき、フォース・ターニングで社会秩序として確立する。ただし、この期間は準備段階であり、次のファースト・ターニングで本格的に新しい社会秩序としてデビューすることになる。

次の周期を決定づけるカギとなる「インターネット」

 では、現在の周期はどうなっているのか。私たちは、今どの節目にいるのだろうか。

 本書では、第2次世界大戦後の1946年から1964年までを高揚、1965年から1984年までを覚醒、1984年以降を分解としている。2017年現在は、計算上フォース・ターニングの危機の時期にあたるのだが、本書には分解がいつ終わり、どの時点から危機が始まったのかが書かれていない。

 それもそのはず、実は本書がアメリカ本国で出版されたのは1997年なのだ。当時はまだサード・ターニングの途中だった。

 著者の1人、ストラウス氏は2007年に亡くなっている。ハウ氏は健在で、2016年に米ワシントン・ポスト紙で「危機の時代は2008年に始まった」と語っている。つまり、前回のフォース・ターニングが、1929年からの世界恐慌から始まったように、今回はリーマン・ショックを契機に危機の節目に突入したと考えているようだ。

 現代のアメリカを中心とするグローバル社会では、同国の危機が世界の危機にダイレクトにつながる。リーマン・ショックももちろん世界の経済に大きな打撃を与えた。それ以外にも、危機の時代への突入を予感させる変化が世界中に見られたような気がする。

 本書の第六章「第四の節目の予言」には、今回のフォース・ターニングに起こるであろう事象を、1997年時点で予測した内容が記されている。これらの中には見事的中していると考えられる予言がいくつもあり、驚かされる。

 特に「新たな指導者は公的な権威を主張し、民間の犠牲を要求する」「米国は外国から目をそらして国内での新秩序の誕生に全力を注ぐことだろう。その後に外国からの挑発に刺激され、社会は新たに好戦的になる」などと書かれている部分を読むと、トランプ政権の誕生を20年も前に、正確に予測しているように思わせられる。

 本書は、アメリカ本国では、トランプ政権のスティーブン・バノン首席戦略官の愛読書として有名になった。まさかバノン氏は、本書に反応して、第2次世界大戦規模の戦争を想定した戦略を立てていたりはしないだろうかと、不安にもなる。

 だが、本書には危機の節目に戦争が不可欠だとは書かれていない。戦争を回避しながら危機をやり過ごすこともできるはずなのだ。大事なのは、その後に訪れる次の周期がどのようなものになるかをしっかりと予見し、今のうちにそれに向けた準備をすることではないか。

 ここからは私見だが、この前のセカンド・ターニングの間に実験が始まり、サード・ターニングにはアメリカから世界中に広まったインターネットの存在が、次の80年を方向づけるように思う。

 たとえば、サード・ターニングの終わり頃である2006年ごろに設立されたウィキリークス。彼らがインターネットで機密文書を暴露する様は、国家権力や巨大企業に挑戦し、旧来の秩序を破壊し始めているかのようだ。

 欧米以外でも、(すでにフォース・ターニングに突入している)2010年からアラブ世界全体に波及した「アラブの春」と呼ばれる民主化運動は、インターネットのソーシャルメディアを介して広がり、政権を次々に打倒。結局沈静化したものの、旧秩序を打ち崩していったことは確かだ。

 つまりインターネットは、新しい価値観を持つ勢力が既存の権威や秩序を攻撃するための強力なツールになっているのだ。最近の世界各国におけるナショナリズムの高まりは、そうした攻撃に対する反動なのではないだろうか。

 しかしインターネットを介する個人のつながりが、国や企業の壁を越えてどのような新秩序を生み出すのか、まだはっきりしているわけではない。フォース・ターニングのカオス的状況の中から、それを見いだしていかなければならないようだ。

 本書の理論とハウ氏の解釈が正しければ、今のフォース・ターニングは2030年までには終わるはずだ。本書は、この「冬の時代」をどのように乗り切り、どんな春を迎えるべきか、さまざまに思いを巡らせるきっかけを作ってくれる。(担当:情報工場 浅羽登志也)

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2017年7月のブックレビュー

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