1. TOP
  2. これまでの掲載書籍一覧
  3. 2017年6月号
  4. 新・新装版 トポスの知

2017年6月の『押さえておきたい良書

『新・新装版 トポスの知』-箱庭療法の世界

臨床心理学者、現代思想家の両大家が語り合う名著が復刊!

『新・新装版 トポスの知』
 -箱庭療法の世界
河合 隼雄/中村 雄二郎 共著
明石箱庭療法研究会 協力
CCCメディアハウス
2017/03 320p 2,500円(税別)

amazonBooks

 精神疾患や心身症の治療の一環として行われる心理セラピーの一つに「箱庭療法」がある。腰の位置に置いて見渡せるくらいの大きさ(一般的に縦57cm、横72cm、高さ7cm)の箱の中に砂が敷き詰められており、そこにセラピーの対象者が、さまざまなモノ(パーツ)を並べていく。パーツには、草木や花、動物や人間のフィギュア、家や柵などがあり、箱の底は水色になっているため、砂を動かして海や島、川などを表現できる。実際に手を動かして何かを表現することで、深層心理に入り込み、治療に結びつけていくのだ。

 この箱庭療法を日本の精神医療に導入し、発展させたのが故・河合隼雄氏である。生前は京都大学名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授、文化庁長官などを務めた。本書『トポスの知』は、河合氏と、日本文化・言語・科学・芸術など幅広い分野にわたる現代思想の著作がある哲学者・中村雄二郎氏による対談を主にしている。兵庫県明石市にある自主的な研究会「明石箱庭療法研究会」で実際に作られた箱庭の作品を見ながら、中村氏の専門分野である「都市論」などと結びつけるなど、自由な発想で話し合われている。

 なお本書は、初版が1984年に出版されており、その後新装版が出されるも長らく品切れになっていたため、「新・新装版」として復刊したものである。

意味を解釈するのではなく「見たまま」を捉える

 箱庭療法のルーツは、イギリスの小児科医マルグリット・ローエンフェルトが、子どものための心理療法として考案した「ザ・ワールド・テクニック(世界技法)」。それをスイスの精神分析家D・M・カルフがユング心理学(スイスの精神医学者カール・グスタフ・ユングが創始した深層心理学理論)を取り入れ、成人にも効果がある技法として完成させた。

 もともとのカルフによる箱庭療法は、作品に表現されたものを象徴として解釈していくようなものだった。ところが河合氏によると、カルフは何度も日本に来るうちに、河合氏らの実践に逆に影響されたのだそうだ。河合氏らは、いちいち象徴として解釈するのではなく、「全体」として見る。「これは〇〇を表している」と意味を探らずに、形の特徴を見ていく。

 たとえば2体の怪獣が戦っている箱庭を「父親と母親が対立している」のように解釈すると失敗するのだという。そうではなく、見たまま「二つの不可解なものの衝突」と捉える。

 これについて中村氏は、哲学の一分野である現象学との類似を指摘する。現象学の特徴の一つは、物事を説明するのではなく、ひたすら記述するところにあるからだ。

日本人は主体より場所を強調する

 また中村氏は箱庭と都市の類似について語る。かつての都市論は、いかに合理的な近代都市を作るかをテーマにしていたという。しかし中村氏は、合理的な近代都市だからといって住み心地がよいとは限らない、あらゆる角度から私たちの生きる糧となるような、さまざまな情報を含んでいるべきだ、と説く。私たちは、箱庭を作るように、いろいろなモノを身の回りに集めていく。都市は、そして世界は一人ひとりのそういった収集によるコンフィギュレーション(設定)ではないかと、中村氏は言う。

 中村氏は場所(トポス)に関する日本人と西洋人の認識の違いも指摘。英語では「誰々がパーティーを開く」と言うのに対し、日本語では「誰々のうちでパーティーが開かれる」と言うことが多い。つまり、日本では主体よりも場所が強調される。そしてこのことが箱庭療法が日本で発展した要因の一つと考えられるというのだ。(担当:情報工場 吉川清史)

amazonBooks

2017年6月のブックレビュー

情報工場 三省堂書店