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2017年5月の『視野を広げる必読書

先生、それって「量子」の仕業ですか?

これまでの科学の常識をくつがえす、摩訶不思議な量子力学の世界

『先生、それって「量子」の仕業ですか?』
大関 真之 著
小学館
2017/01 192p 1,400円(税別)

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実は「ガラス」の性質もはっきりとは解明されていない

 科学技術が高度に発達した現代でも、いまだにわかっていないことは意外に多い。たとえば、私たちの身の回りにあるガラスだ。
 人類は、旧石器時代には、いわば天然のガラスである「黒曜石」を切りだして、刃物や矢尻に使用していたことがわかっている。また、紀元前2250年ごろには、すでに本格的なガラス製品が作られたとされる。

 もちろん現代の私たちは、ガラスを生成、加工する工学的な方法はよく理解している。しかし、ガラスの持つ不思議な性質にお気づきだろうか。通常、固体は光を遮るものだが、ガラスは光を通す。その事実から、実はガラスは液体ではないかという説がある。固体は分子が規則正しく格子状に並んだ結晶構造を持つが、ガラスにはそうした結晶構造がなく、むしろ液体に似た構造をしている。それゆえ「過冷却された液体」とみなす考え方もあるのだ。

 つまりガラスは、液体とも固体ともつかない、なんとも不思議な存在ということだ。さらに、その生成メカニズムもいまだ謎のままというから驚きだ。

 ガラスの不思議な性質は、前述のように分子同士の結合の仕方による。分子はさらに、いくつかの原子が結合してできている。たとえば水の分子(H2O)は、2個の水素(H)原子と1個の酸素(O)原子が結合したものだ。そして、それぞれの原子の中には、原子核や電子など、もっと小さな粒がある。これらの超微細な粒を総称して「量子」と呼ぶ。

 本書『先生、それって「量子」の仕業ですか?』のテーマ「量子力学」は、徐々に解明されつつある量子が従う法則を扱う最先端の物理学だ。

 本書の著者、大関真之氏は、東京工業大学理学部物理学科を卒業し、2008年同大大学院博士課程早期修了。駿台予備学校物理科非常勤講師、京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻助教、ローマ大学物理学科研究員を経て、現在は東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻准教授を務める理学博士だ。2016年には文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞している。

 量子は、超高性能な電子顕微鏡でなければ観察できないほど微細だ。しかも私たちの常識を超える不思議な性質を持っている。したがって、それを説明しようとする量子力学に、難解なイメージを抱く人は少なくないだろう。
 だが本書で大関氏は、たくさんの比喩や事例を使うことで、極力分かりやすい説明をめざしている。

粒と波の“どちらでもある”量子の不思議を明らかにした二重スリット実験

 本書にも登場する「二重スリット実験」は、量子の世界の不可思議さをもっとも顕著に示す、非常に有名な実験だ。この実験にロマンを感じて量子力学を志した研究者も多いのではないだろうか。

 まず、光に感応するスクリーンを立て、その手前に非常に細い縦長の穴(スリット)を二つ並べたついたてを置く。そして、そのついたて越しにスクリーンに向かって光の粒(量子の性質を持つ素粒子の一つである光子〈フォトン〉)を1個ずつ飛ばしていく。すべての粒が同じルート・高さで飛ぶわけではなく、縦長のスリットの中をそれぞれ上下にランダムに通り抜けていく。その繰り返しの結果、スクリーン上にどのような模様ができるかを観察する。これが二重スリット実験の概略だ。

 常識的には、スリットを通して光を当てることになるので、スクリーンにはスリットと同じ形の二つの細長い縦線の跡ができそうなものだ。だが実際には、スクリーン一面に広がるしま模様ができた。

 なぜしま模様になったか。実は、この模様は粒ではなく「波」が作るものと同じだった。つまり、光を粒ではなく波だと考えれば、この現象に説明がつく。ということは、光は波なのか。しかし、光源から飛ばす時には、明らかに光は粒だったはずだ。

 さらに不可思議なことに、スリットを一つにして同じ実験をすると、スクリーンにしま模様はできずに、一つのスリットと同じ形の縦長の線状の模様ができた。つまり光の粒が、“粒のまま”飛んでいったことになる。もし光が波であれば、スリットが一つの場合でも、縦長の模様ではなく、スリットの形より大きく広がった跡がつきそうなものだ。

 まとめると、光の粒は一つしかスリットがない状態では粒のままスリットを通過する。だが、二つのスリットという複数の「可能性」があると、ついたての手前で波に変化して両方のスリットを同時に通過する、ということになる。

 なんとも訳が分からない。しかし、何度実験しても全く同じ結果が出るので、事実として受け止めざるを得ないのだ。

 二重スリット実験は、量子が波と粒子という二つの性質を同時に持つことを明らかにした。この実験は2002年に英国物理学会の会員誌「Physics World」の読者投票で、「もっとも美しい実験」に選ばれている。

西洋的な真理探究法の限界

 西洋の近代科学は、あらゆる物象を細分化し、それぞれに固有の性質や法則を解き明かすことで発展してきた。それは「AはBである」ことを前提としており、「AはBでもあり、Cでもある」といったあいまいさとは相いれないものだった。実際、光が粒か波かという論争は、ニュートンの時代から延々と繰り返されてきており、科学者はどちらか一方であるという結論を出すことに心血を注いできた。

 しかし量子力学の考え方に触れると、そういったこれまでの西洋的な真理の探究法が限界を迎えたようにも感じられる。東洋的発想ならば「Bでもあり、Cでもある」という、複数の可能性を「あるがまま」に受け入れられる。
 量子力学の基礎を築いた物理学者エルヴィン・シュレーディンガーの著書『精神と物質』には、「西洋科学の構造に東洋の同一化の教理を同化させることによって解き明かされるだろう」という記述がある。

 そんな量子力学の応用で、MRI(核磁気共鳴画像法)のような高度な医療機器が作られるようにもなった。また、リニアモーターカーのような超高速移動を可能にする乗り物も、量子力学の発展がなければ実現し得なかった。

 今後も、常識を覆す理論である量子力学を活用することで、これまで説明できなかったものが説明できたり、夢物語でしかなかったものが実現できるかもしれない。

 たとえば、最近話題に上ることが多い量子コンピューターも、実用化が進められている。これまでのコンピューターでは、複数の場合に分かれる計算を一つずつ実行していかなければならなかった。しかし量子コンピューターでは、光の粒が波になって二つのスリットを同時に通ったように、複数の可能性をいっぺんに計算して解くことが可能になる。つまり、これまでとは桁違いに高速な計算ができるようになると期待されているのだ。

 さらに大関氏は本書で、マンガのドラえもんが四次元ポケットから取り出すさまざまな未来のひみつ道具の実現可能性を真面目に考察している。将来、物理学を志すかもしれない子どもたちに夢を与えたいということだろう。

 本書を読めば、量子力学の細部は理解できないまでも、その基本的な考え方はつかめるのではないだろうか。これまで不可能とされてきた課題に量子力学がどのように挑むのか、イメージを膨らませてみてほしい。(担当:情報工場 浅羽登志也)

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2017年5月のブックレビュー

情報工場 三省堂書店