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2017年3月の『視野を広げる必読書

ブロックチェーン・レボリューション

仮想通貨ビットコインを支える革新的技術が経済の仕組みを根本から変える

『ブロックチェーン・レボリューション』
 -ビットコインを支える技術はどのようにビジネスと経済、そして世界を変えるのか
ドン・タプスコット/アレックス・タプスコット 著
高橋 璃子 訳
ダイヤモンド社
2016/12 424p 2,400円(税別)

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インターネットに不足していた「信頼性」

 1990年代初頭の、米国でインターネットの商用利用が始まったばかりの頃は、インターネットが世の中をがらりと変えるかもしれないと言っても、日本では誰にも相手にされなかった。それどころか、インターネットの存在を知っている人自体、限られていた。

 Internet World Statsによると、2016年6月末、ついに世界人口の50.1%、つまり世界の過半数の人がインターネットにつながった。もはや日本人でインターネットを知らないという人はきわめて少数派だろう。ただし、インターネットが世界を根本的に変えたかというと、まだそこまではいっていないと感じる。

 確かにインターネットは通信やメディア、コミュニケーションのあり方を大きく変えた。ビジネスの手法や、人々の日常的な活動が変化していないといったら嘘になる。だが、社会の根幹である経済の仕組みについてはどうだろう?

 経済を動かしている基本的な仕組みは、実はあまり変わっていない。例えばネットショッピングの決済は主にクレジットカードや銀行振込など、インターネット登場以前からある仕組みに頼っているのが現状だ。

 本書『ブロックチェーン・レボリューション』の主題である「ブロックチェーン」という技術はそうした根本的な経済の仕組みを変える可能性がある。つまり、ブロックチェーンによってインターネットがいよいよ世の中を抜本的に変革する段階に入るかもしれないのだ。

 本書は、ドン・タプスコット氏とアレックス・タプスコット氏の親子によって著されたものだ。二人でスキー旅行に出かけた時の夕食時のブレーンストーミングが執筆のきっかけになったそうだ。

 父親のドンには、世界的ベストセラーとなった『ウィキノミクス』(日経BP社)や、英エコノミスト誌ベストビジネス書に選出された『デジタルネイティブが世界を変える』(翔泳社)をはじめとする多数の著書がある。イノベーション、メディア、グローバリゼーション研究における世界的な権威で、テクノロジーが企業と社会にもたらす経済的・社会的な影響を世に問うている。

 息子のアレックスは、ノースウェスト・パッセージ・ベンチャーズ社創業者兼CEO。投資銀行での実務を経て、現在はブロックチェーン関連ビジネスへのアドバイザリーを行っている。ブロックチェーンの時代を率いる若手オピニオンリーダーとして、タイム誌やハーバード・ビジネス・レビュー誌など、多数の有力メディアに寄稿している。

 まさにブロックチェーンというテクノロジーの経済的、社会的な影響を予測し、これから世界がどう変わっていくのかを語るのにふさわしい二人といえるだろう。

Webブラウザの発明者も驚いた革新的技術

 リーマン・ショックが世界経済を揺るがせた2008年の終わり頃、サトシ・ナカモトと名乗る謎の人物がネット上で一本の論文を公開した。そこでは「ビットコイン」というまったく新しい仮想通貨のアイデアと、それを実現する技術について論じられていた。その革新的な技術が、ブロックチェーンである。

 ブロックチェーンは、ビットコインの「信頼性」を保証し、実社会での通貨としての使用を可能にする。利用者同士が相互に監視する「分散管理」が特徴だ。国家や銀行など、中央の管理者は必要なくなる。

 世界初のWebブラウザ「Mosaic」の開発者であるマーク・アンドリーセン氏は、このナカモト氏の論文を読み、「(ナカモト氏は)天才だ」と評したそうだ。

 インターネットが登場する以前の通信や放送のサービスは、国か国が認めた事業者が集中管理するかたちで提供されていた。しかしインターネットとWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)が商用化されたことで、誰もがインターネットに接続さえすれば、世界中の情報にアクセスし、発信やシェアもできるようになった。

 しかし、WWWを世に広めるのに貢献してきたアンドリーセン氏は、インターネットは「分散型信頼ネットワーク」を作れていなかったと指摘している。WWW上の情報が信頼できるものかどうかを保証する有効な仕組みがなかったということだ。彼がナカモト氏を天才と評したのは、まさにその仕組み、すなわち「信頼のプロトコル」を提案していたからだ。

 従来の銀行口座間の取引帳簿は、銀行のホストコンピュータで集中管理されていた。一方、ビットコインのブロックチェーンでは、帳簿の内容を(利用者の個人情報が特定されないかたちで)インターネット上に公開する。そして、利用者同士(のコンピュータ)が相互に監視する、分散方式で管理するのだ。ブロックチェーンには、暗号技術などさまざまなIT技術が駆使されている。正しい利用者であることを認証しながら、すべての取引を記録する。たとえ悪意を持ったユーザーが改ざんしようとしてもできない、堅牢なシステムが組み込まれている。

 つまりブロックチェーンを使ったビットコインの運用は、中央銀行はもちろん、市中のあらゆる金融機関を必要としないのだ。WWWは情報流通の自由度を劇的に上げ、それに必要なコストをタダ同然にした。ブロックチェーンは、お金の流通においても同様の自由化をもたらす。

 ブロックチェーンによって必要なくなるのは銀行だけではない。本書には、企業が出資者から直接資金を集めたり、アーティストにファンが作品の対価を直接支払う、といったブロックチェーンの応用事例も紹介されている。

あらゆる取引や情報のやり取りに革命をもたらす

 ブロックチェーンは、信頼性と改ざん防止機能を組み込んだ分散型取引台帳管理システムとみなせる。つまり、あらゆる取引の記録や、公式文書の正しさの証明に応用できるのだ。

 著者たちは、約束の履行/不履行の監視と対価の支払いを自動化する「スマートコントラクト」が実現できるとも考えている。誰と誰がいつまでにどんな取引を行う約束をし、対価をいくらに決めたのか、といった契約の詳細をブロックチェーンに記録し、双方の取引の過程で条件が満たされたかどうかをチェックするプログラムだ。

 さらに、ブロックチェーンはサプライチェーン管理にも応用できるという。ブロックチェーンを使い、生産者、輸送業者、通関業者がそれぞれ管理している台帳管理を自動化し、統一する。そうすれば、いつ誰が誰に何をどれだけ出荷したかを、煩雑なペーパーワークがなくても正しく記録し、支払うべき金額を自動的に計算して、所定の日時に決済することも可能だ。これが実現すれば、物流管理全体を大幅に効率化できる。

 ブロックチェーンが分散管理と自動化を実現することで、中央、あるいは中間に入る余分な組織やシステムが不要になる。それにより、さまざまな取引や情報のやり取りの低コスト化、省力化、効率化が進み、そこに信頼性が付与される。これならば、世の中がガラリと変わり、社会が進化すると言われても納得がいくのではないだろうか。

 もっとも、中央管理を完全になくすのは現実的ではないだろう。かえって非効率になることもあるかもしれない。ただ、少なくとも、利用者が主体の分散管理でたくさんのことが実現できる世の中は、真に民主的な理想社会に近いといえるのではないだろうか。(担当:情報工場 浅羽登志也)

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2017年3月のブックレビュー

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