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2017年1月の『押さえておきたい良書

老舗の流儀―虎屋とエルメス―

伝統を守りながら革新を続ける老舗2社トップ対談

『老舗の流儀―虎屋とエルメス―』
黒川光博/齋藤峰明 著
新潮社
2016/10 223p 1,600円(税別)

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 500年の歴史をもつ和菓子の老舗である「虎屋」。そして、フランス・パリで創業以来180年間、世界中の人々の信頼に応えてきた高級服飾品ブランド「エルメス」。発祥の国も扱う商品もまったく異なるこの二つの企業には、意外なつながりがあった。
 2015年8月までエルメス本社副社長を務めていた齋藤峰明氏は、以前に雑誌のインタビューで「エルメスのライバルはどこですか」との質問に「強いていうなら虎屋さんでしょうか」と答えた。それをきっかけに、エルメス製品のユーザーでもあった虎屋十七代、黒川光博社長との交流が始まったという。本書『老舗の流儀―虎屋とエルメス―』は、この二人の数回にわたる対談をまとめたものだ。

「こういうものがあったらいいな」が革新の原点

 対談のテーマは、伝統を守りながら新しいことに挑戦するといった両社の共通点から始まり、フランスと日本の文化の違い、企業経営やリーダーシップについての考え方、女性や若者の活躍、ファッション論など、多岐にわたる。たとえば、共通点の一つである伝統と革新への考え方については、齋藤氏の次のような発言がある。

“時間軸にのって、自由に動きながらやってみたものが、結果的に残っていくのだと思います。エルメスもいろいろ新しい商品を出していますが、成功するものと失敗するものとがある。成功すると、「必然的にこういうことをやるべきだったんだ」と、後から言われますし、失敗すると、「あの時はいいと思ったけれども、本来のものではなかった」と言われてしまう。
 そう考えていくと「作る必然」とは、最初からわかっているものではなくて、理由付けは後からなされるもの。どうしても作りたいという人がいて作った。それを多くの人が素晴らしいと思った。それが、必然になっていくのだと思います。”(『老舗の流儀―虎屋とエルメス―』p.90-91より)

 齋藤氏は、その「必然」を作るのはお客様だと言う。だが、エルメスでは「売るためのマーケティング」はやってこなかった。
 職人は自分のこだわりや、エルメスの「長きにわたって愛用してもらう」という理念を守る。そのうえで時代の風を意識し、「こういうものがあったらいいな」と考えて新しいものを生み出す。それをお客様が受け入れる。その積み重ねが同社とブランドの伝統を作ってきたのだという。

本質的に良いものの追究が伝統を作っていく

 黒川氏は、「時代によって味は変わるもの」と考えている。その時々に和菓子を食べるお客様に「おいしい」と思ってもらわなくてはならない。しかし、そうした考えから商品の味を変えようとしても、実際には大きく変わらないのだそうだ。虎屋のお菓子は最初に作った時に相当に吟味されており、それを超える味は簡単には作れないからだという。
 同氏は、本質的に良いものかどうかを常に追究し続けてきた、とも語る。新しい商品が最初に作った時の味を超えて、それが本質的に良いものとしてお客様に受け入れられれば、それは虎屋の新しい伝統になる。だが、それは一朝一夕には難しい。そこで、本質的に良いものである、最初に作った時の味に、時代ごとのおいしさを組み合わせていく。それが虎屋の伝統と革新ということができる。(担当:情報工場 川崎陽子)

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2017年1月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店