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2017年1月の『押さえておきたい良書

使用人たちが見たホワイトハウス

歴代米大統領一家を支え続ける“黒子”たちの物語

『使用人たちが見たホワイトハウス』
 -世界一有名な「家」の知られざる裏側
ケイト・アンダーセン・ブラウワー 著
江口 泰子 訳
光文社
2016/10 445p 2,000円(税別)

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 アメリカ合衆国大統領が職務を行う官邸であり、同時に家族とともに住まう公邸でもあるホワイトハウス。そこでは執事、ドアマン、料理人、メイド、フローリストなど100人以上のスタッフ(使用人)が働いている。大統領選挙の結果、ホワイトハウスの主が代わっても、それを機にスタッフが交代することはほとんどない。彼らは引き続き、次のファーストファミリー(大統領一家)に仕える。使用人たちは、わが家でくつろぐ大統領の無防備な姿を日常的に目にする。ファーストファミリーも彼らに素顔を見せることを恐れない。
 本書『使用人たちが見たホワイトハウス』は、ブルームバーグ・ニュースのホワイトハウス付き記者だった著者が、かつてのファーストファミリーや元スタッフなど合計100人を超える人々へのインタビューをもとにしたノンフィクション。決して表舞台に立つことはないが、ホワイトハウスで働くことを最高の栄誉として大統領一家に仕える使用人たちにスポットを当て、彼ら自身やファーストファミリーをめぐる数々のエピソードから、ホワイトハウスの真の姿を浮かび上がらせている。

暗殺されたケネディ大統領の遺品を贈られたドアマン

 本書には、ファーストファミリーがいかに使用人たちを信頼してきたかを物語るエピソードが満載だ。暗殺されたケネディ大統領の葬儀の後、ドアマンのプレストン・ブルースは、ジャクリーン夫人から一本のネクタイを手渡された。それは狙撃された時に大統領が上着のポケットに入れていたネクタイだった。夫人はこう言ったのだ。「夫はあなたに受け取ってほしかったと思うの」
 4年ないし8年に一度、使用人たちはつらい別れを経験する。献身的に仕えてきたファーストファミリーがホワイトハウスを去るからだ。だが彼らには感傷に浸る暇はない。すぐさま新しいファミリーを迎える準備に入らねばならない。
 ジョンソン大統領から職を受け継ぐにあたり、ニクソン大統領はホワイトハウスのスタッフに少々変わった要求をしたそうだ。ジョンソン大統領はTVニュースが大好きで、ホワイトハウスのいたるところにテレビを置いていた。しかし、マスコミ嫌いのニクソン大統領は、ホワイトハウス内のほとんどのテレビを処分するよう命じたという。華々しい就任祝賀パレードの裏側では、慌ただしく大量のテレビがホワイトハウスから運び出されていたのだ。

毒を盛られないよう食材の調達先はトップシークレット

 著者によれば、ホワイトハウスの使用人たちは、まるで「DNAに口の堅さが組み込まれている」ようだという。たとえば6人の大統領に仕えた執事のジェイムズ・ラムジーは、現役時代に一度もマスコミと接触しなかった。飲みに行こうという同僚の誘いもすべて断っていた。
 アイゼンハワー大統領在任(1953年から61年)時から2013年まで貯蔵室の責任者を務めたビル・ハミルトンは、ファーストファミリーの毎日の食事のために、半世紀以上にわたって地元のとある食料雑貨店から食材を購入してきた。だが、店の人に自らの職務を明かしたことはない。引退した今でも、購入した店の名前を明かさない。食材に毒を盛られる危険があるためだ。(担当:情報工場 藤浦泰介)

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2017年1月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店