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2016年12月の『押さえておきたい良書

人口と日本経済

日本は人口が減っても経済成長を続けられる!

『人口と日本経済』
 -長寿、イノベーション、経済成長
吉川 洋 著
中央公論新社(中公新書)
2016/08 208p 760円(税別)

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 2016年10月26日、総務省は2015年国勢調査の確定値を発表、日本の総人口は1億2709万5000人で、2010年の前回調査から96万3000人の減少となった。これは、国勢調査開始以来初の減少であり、日本が本格的な人口減少時代を迎えたことを示唆している。さらに、2012年1月に公表された国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口(出生中位)によれば2110年の日本の人口は4286万人まで減る。これから100年足らずの間に約3分の1になるということだ。
 単純に考えて人口が減れば働き手も減る。日本は高齢化も深刻なためさらなる労働力不足が懸念される。財政赤字は拡大の一途をたどり、地方は消滅の危機に瀕する。多くの日本人が、このような「日本衰退」のシナリオを恐れているのではないだろうか。
 本書『人口と日本経済』では、そんな日本人の間にまん延する人口減少ペシミズム(悲観論)を不要のものとしている。人口と経済成長はそれほど不可分に結びついているわけではなく、人口が減っても応分の成長を維持することは可能だというのだ。本書では欧米の経済学者たちによる人口論も踏まえ、豊富なデータを示しながら、21世紀の日本を考える上での重要なキーワードである人口と経済の関係について論じている。
 著者は長らく人口問題に取り組んできたマクロ経済学者で、現在は立正大学教授、東京大学名誉教授を務めている。

働き手が減っても一人あたりの労働生産性を上げれば大丈夫

“働く人の数が減れば、つくられるモノの量も減るに違いない。これは分かりやすい理屈であり、否定すべくもない「鉄壁の論理」であるように思われるかもしれない。しかしこの議論には、実は大きな論理の飛躍があるのである。一国で1年間につくり出されるすべてのモノやサービスの価値(正確には「付加価値」)の総計を表すのがGDP(国内総生産)だが、その成長率は、決して働き手(労働力人口)の増加率だけで決まるものではない。”(『人口と日本経済』p.73より)

 上記引用を証明するのに著者は、1870(明治3)年から1990年代までの日本の人口と実質GDPの推移を比較したグラフを示す。それによれば、両者の変化にほとんど相関が見られないことがわかる。とくに戦後は実質GDPが急勾配のカーブを描き伸びているにもかかわらず、人口の増加はゆるやかだ。
 著者は、この伸び率の差が「労働生産性」の成長であると説明している。労働力人口が変わらない、あるいは少し減ったとしても、労働者一人あたり生産量が増えれば、経済成長率はプラスになるというのである。

健康寿命やQOLの問題を解決するイノベーションを

 では、労働生産性はどうすれば伸ばせるのか。先進国の場合、労働生産性を上げるのに必要なのは労働者の体力ややる気ではない。新しい設備や機械の投入と、広い意味での技術進歩、すなわちイノベーションによる効率化が大きい、と著者は指摘する。また、イノベーションによって便利なサービスや仕組み、製品が生み出されれば、需要が増大し、経済成長につながる好循環を生む。
 日本のような超高齢社会では、健康寿命(日常的・継続的な医療・介護に依存せずに生活ができる生存期間)やQOL(生活の質)が重要な課題となる。社会のあり方も大きく変わる。著者によれば、それらへの対応こそが、人口減少に抗して経済成長を維持するためのイノベーションになる。(担当:情報工場 吉川清史)

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2016年12月のブックレビュー

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