2016年12月の『押さえておきたい良書』
一般的に理想のリーダーや上司といえば、「褒め上手でやる気を引き出すリーダー」「ものわかりのよい、包容力のある上司」などといったイメージをもつ人が多いのではなかろうか。
これらのイメージ通り部下にやさしく接し、前向きに力を発揮できるよう環境を整えようとするのが「いい上司」であることは確かだ。だが本書『「最高の上司」は嫌われる』では、それでは「最高の上司」にはなれないと指摘している。
本書は、いい上司がさらに上をめざし、最高の上司となるための指南書といえる。著者のマルクス・ヨッツォ氏は、国際企業ユニリーバでの管理職経験を生かし「リーダーシップ・デベロップメント研究所」を設立。リーダー育成のコーチ、トレーナーとして活躍している。
批判による痛みを避ければゴールは遠のく
リーダーが部下の態度やパフォーマンスに対して与える批判的なフィードバックは、たいてい彼らに不快な痛みを与える。だが、引用したように、痛みを避けるのは、ゴールに向かう行動ではない。痛みに向き合わず避けて通ることは、後ろ向きな行動にほかならないからだ。
批判的なフィードバックのせいで部下から嫌われることもあるだろう。しかし、そこで併せて建設的なアドバイスを与えることで、部下はその痛みをポジティブに捉えられるようになる、と著者は説く。二度とこんな痛みを感じることのないようにしよう、と思わせられれば、最高の上司に一歩近づけるのだ。
部下の長所短所を把握し一人の人間として扱う
部下が十分な成果を上げられなかった時に、リーダーはその原因をスキル不足と考えがちだ。しかし、それは正しいとは限らないと著者は指摘する。問題はスキルではなく性格や習慣にあることが多いというのだ。
だから最高の上司は部下のスキルのみを育成しようとはしない。人格そのものを育てようとする。そのためには、部下たちをよく観察し、コミュニケーションをとりながらそれぞれの長所と短所を把握しなければならない。そして、リーダーには部下の長所を生かせる役割や活躍の場を見つけてあげるとともに、短所を補うべく的確なサポートが求められるという。
自分の人格が上司に認められたと感じられれば、情熱をもって前向きに仕事に取り組めるようになるだろう。著者は、リーダーが部下を単なる従業員とみなせば、部下は仕事をただの作業としてこなすと言う。一方で、リーダーが部下を長所とともに短所も抱えた一人の人間として扱い、その成長をサポートする姿勢を見せれば、部下は自分の仕事を「誠心誠意を込めて自分が成し遂げるべき課題」とみなすようになるとしている。(担当:情報工場 川崎陽子)