2016年12月の『押さえておきたい良書』
さまざまな分野において、成功し偉業を成し遂げた人たちは、それ以外の人と「何」が違うのか。仕事において大きな成果を上げるのに個人に必要とされる、もっとも重要な資質は何か。そうした問いの答えを、生まれつきの才能と考える人は少なくないだろう。
しかし、ペンシルベニア大学心理学部のアンジェラ・ダックワース教授は研究の結果、才能よりも重要な資質の存在を明らかにしている。「グリット(GRIT)」である。
グリットは発表されるやいなや大きな注目を集めた。米国教育省の報告書が教育の最重要課題として提唱、オバマ米大統領やFacebook創業者のマーク・ザッカーバーグがたびたび発言の中に取り入れている。
本書『やり抜く力』では、ダックワース教授自らが、グリットとは何か、どのように測定するか、また誰にでもできるグリットの開発法などを詳しく解説している。
陸軍士官学校の中退率の研究がグリット発見のきっかけ
ダックワース教授がグリットの存在に気づく大きなきっかけになったのは、米国陸軍士官学校(ウェストポイント)の中退者に関する研究だった。ウェストポイントでは、およそ5分の1の学生(士官候補生)が中退するが、その大半は入学直後に行われる「ビースト」と呼ばれる過酷な基礎訓練に耐えきれなかった者たちだという。
ウェストポイントは、最難関大学と同じくらい入学審査が厳格なことでも知られる。入学時に、どのくらい士官候補生としての資質があるかどうか、「志願者総合評価スコア」を算出することで判断される。
ところがダックワース教授が調べたところ、志願者総合評価スコアで最高評価を獲得した士官候補生の中退率は、最低ランクの者たちと同じくらいだった。つまり、厳格に審査された彼らの資質は、ビーストのような困難を乗り越える力とは関係なかったのだ。
「情熱」と「粘り強さ」からなるグリット
ダックワース教授はその頃、「成功の心理学」の研究を始めており、さまざまな業界で実績を残した人々にインタビュー調査を行っていた。そして、その回答を分析することで、グリットの存在をつきとめたのである。
このように、みごとに結果を出した人たちの特徴は、「情熱」と「粘り強さ」をあわせ持っていることだった。つまり、「グリット」(やり抜く力)が強かったのだ。”(『やり抜く力』p.23より)
上記のように、グリットは情熱と粘り強さという二つの要素でできている。ここでいう情熱とは、「夢中」や「熱中」と同じではない。「一つのことにじっくりと長いあいだ取り組む姿勢」を指す。ダックワース教授は、この情熱と粘り強さを測る10項目からなるテスト、「グリット・スケール」を開発している。
自分の中にグリットを育み、それを発揮して成果を上げるには「目標」が欠かせない。しかも、たった一つのもっとも重要な目標の設定がキーポイントになる。複数の小さな目標を最重要の目標に関連づけ、整理することが、グリットを発揮して成功をつかむ第一歩になるのだ。(担当:情報工場 吉川清史)