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2016年11月の『視野を広げる必読書

一流の育て方

親としての豊富な経験とアンケートデータから編み出された究極の子育て法

『一流の育て方』
ムーギー・キム/ミセス・パンプキン 著
ダイヤモンド社
2016/02 352p 1,600円(税別)

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主観論ではないエビデンスに基づく「子育ての教科書」

 わが子には幸福で有意義な人生を送ってほしい。子をもつ親なら誰しもそう願うことだろう。私自身も幼い子をもつ父親として、「この子の将来の幸せのためにどんな能力をつけてあげるべきなのか」と、その安らかな寝顔を眺めながら思案する毎日だ。これまでさまざまな育児本を手にとってきたが、子どもを有名大学に入れたといった成功体験をもとに主観的な持論を中心に述べているだけのものなど、参考にしづらい本も少なくなかった。

 ベストセラー『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者でもある教育経済学者の中室牧子氏は、誰もが自身の経験をもとに主観的な議論を展開する「一億総評論家状態」に警鐘を鳴らしている。そして、子どもの教育に関するエビデンス(科学的根拠)に基づく議論の重要性を強調する。

 本書は、その中室氏も推薦のコメントをよせる、豊富なエビデンスに基づく「子育ての教科書」だ。発売当初から大きな反響を呼び、大ベストセラーとなっている。

 著者の一人であるムーギー・キム氏は、プライベートエクイティ・プロフェッショナルとして海外で活躍しながら、世界中のエリートの働き方に関する著作活動を行っている。その一環として同氏は、東大・京大・早慶を中心としたエリート大学生のうち、突出したリーダーシップを発揮している200人超を対象に、幼少期からどのような家庭教育を受けてきたか、アンケート調査を行った。この調査の結果を体系化したものが本書のもとになっている。

 もう一人の著者、ミセス・パンプキンはムーギー・キム氏の実母。4人の子どもを育てた経験を生かしたオンラインの育児相談コラムで人気を博している。本書はムーギー・キム氏がアンケートデータの体系化をもとに見出した育児方法について、ミセス・パンプキンが、時には自らの育児を反省したり、失敗談を交えながら、具体的な方法を提言する形式で書かれている。

 いい大学やいい企業に入ることをゴールとはせず、その先の幸福なキャリアや、人生を自ら切りひらく「一流」を育む方法とは、いったいどのようなものなのだろうか。

ビジネスで大切な主体性を育む秘訣は家庭教育に

 本書では、成功に必要な「主体性」「広い視野」「グリット(やり抜く力)」「コミュニケーション能力」「学習習慣」「自制心」「信頼感」の七つを挙げ、全部で55の具体的な育成方法を提案している。この七つのうち、グリットは日本人にはなじみのない言葉かもしれない。これはペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース教授が提唱する概念で、長期的な目標を達成しようとする情熱や粘り強さを指している。

 七つの筆頭に挙げられている主体性については、私自身のビジネス上の経験で、その重要性を実感させられることが多い。
 たとえば管理職として10人の部下を抱えていたときのこと。年初の個人目標設定にあたり、私が何も言わないうちに、自分で目標案を作成して持ってくる部下が数人いた。その目標案はいずれも、自分がやりたいこと、できること、求められていることを自ら把握し、それらのバランスを考慮したものだった。彼らは総じて仕事のパフォーマンスが高いだけでなく、年末に行う、仕事や会社に対する満足度調査のスコアも高かった。

 一方で、自分自身で目標を設定できず、上司である私が具体的なアクションを含めて案を提示しなければならない部下もいた。彼らと面談しながら、自分が何をしたいのかを知り、自分の中に軸をつくるには、ある程度の練習が必要であることに思い至った。

 本書が説く幼少期からの家庭教育で主体性を育む方法は、まず第一に、子どものことは子ども自身に決めさせることだ。たとえば、習い事を親が勝手に決めない。これは、ミセス・パンプキンが自身の失敗体験から痛感していることだという。親の意向だけで子どもに5種類以上の習い事をさせていたが、どれも長続きしなかった。親の押しつけを避け、子どもの判断力を信じることが重要なのだ。

 ただし、親が方向性について適切なアドバイスを与えたり、選択肢を示す必要もあるという。塾や習い事など、子どもが自分で見つけるのが難しいものについては、親が情報を収集して子どもに提示してあげるといい。子どもが考える材料を適切に与えることは、判断力を養う良い訓練になるからだ。

 著者らの提案は、身近で誰にでも実践できる方法ばかりだ。私もさっそく、子どもに決めさせることを意識的に実践してみた。以前から、息子が就寝時刻になっても遊びをやめず夜ふかしして私が叱責することがよくあった。しかし本書を読んでからは、叱りつける前に「夜ふかしして楽しく遊んで寝坊して困るのと、早寝早起きをしてから遊ぶのと、どっちが良いか選んでごらん」と声をかけるようにした。すると、息子は早寝することを素直に選んだ。こうした日々の小さな積み重ねで主体性が育まれることを期待している。

各家庭オリジナルの子育て方針をつくるお手本に

 子どもにはそれぞれ個性があるため、本書の方法のすべてが、あらゆる子どもに当てはまるということは、もちろんない。著者らもそう考えていて、本書に示された幅広い「育児成功パターン」から、各々の子どもに適したものを選んで実践することを推奨している。もし各家庭で本書を実際の子育てに役立てたいと考えるなら、この点を考慮して方針を作成するとよいのではないだろうか。手前味噌であるが、あくまで参考としてわが家なりの子育て方針づくりに本書を活用したケースをご紹介しよう。

 私は定期的に妻と話し合い、子育て方針を書き出している。わが子が身につけるとよいと考える能力については、年齢に応じた目標を決めて、育成の手段・取り組み方について検討・情報収集を行う。その上で子どもに提案し、本人が意欲を示したら実践する。たとえば、身体能力を伸ばすという目標に対して、今年は本人が水泳に興味を示した。そこで、近所のスポーツ施設で遊び半分で練習する、もしくは短期の幼児向け水泳教室に通うかという選択肢を提示したところ、本人は後者を選択した。

 わが家では、本書の豊富な方法論から夫婦の価値観に沿うもの、子どもの個性や年齢に合うと思ったものを選択し、子育て方針に加えるようにした。すでに実践しているのと同じ方法が本書に書かれていれば、「この方針でおそらく間違いないのだろう」という自信を得ることができた。一方でまだ実践していない方法を見つけたときには、それを取り入れるべきかを検討していった。

 大事なのは、本書で明らかにされた「子育ての成功パターン」について各家庭で考え、それぞれに合うようにカスタマイズするプロセスなのだと思う。これまでの子育てをもう一度じっくり見直し、改善する材料として、本書を活用してみてはいかがだろうか。(担当:情報工場 足達健)

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2016年11月のブックレビュー

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