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2016年10月の『押さえておきたい良書

サイボーグ化する動物たち

SFが現実に! ここまで進んだ動物のサイボーグ化技術

『サイボーグ化する動物たち』
 -ペットのクローンから昆虫のドローンまで
エミリー・アンテス 著
西田 美緒子 訳
白揚社
2016/08 288p 2,500円(税別)

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 人類は昔から動物たちの身体を作り変えてきた。たとえばイヌ。人間の役に立つようにしたり、単なる好みから品種改良が進められ、今では地球上でもっとも身体的多様性に富んでいるそうだ。もし宇宙人が来訪してプードルとドーベルマンを見たとすれば、それらが同じ種に属しているとは到底思えないだろう。
 本書では、このような伝統的な品種改良からDNA操作、身体に機械を埋め込む“サイボーグ化”まで、人間が動物を意のままに作り変える最先端の技術をリポート。また、それに伴って発生する倫理的な問題にも触れている。
 著者のエミリー・アンテス氏は『ネイチャー』『ワイアード』などの各誌に執筆する科学ジャーナリスト。本書の原書は優れた科学書に贈られる「AAAS(アメリカ科学振興協会)/Subaruサイエンスブックス&フィルム賞」を受賞している。

ラジコンのように意のままに動かせるネズミ

“手はじめに、ラットの頭部を切り開いて脳に鋼のワイヤーを埋め込む。そのワイヤーのもう一方の端を、頭蓋骨にあけた大きな穴を通して脳から外に出し、ラットに背負わせたバックパックにつなぐ。(中略)誰かがラットから500メートルくらい離れた場所に座ってノートパソコンで受信器にメッセージを送ると、受信機は信号をマイクロプロセッサーに伝え、マイクロプロセッサーはワイヤーを通じてラットの脳に電荷をかける。”(p.196より)

 本書で取り上げられた動物のサイボーグ化研究の一例としては、災害時の捜索救助活動などに役立てることを目的とする、ニューヨーク州立大学の「ロボラット」研究がある。
 たとえばラットには、顔の側面に感触があれば、そこに障害物があると認識して逆方向に向かおうとする本能がある。そこで科学者たちは、上に引用したような操作をラットに施し、顔の側面への感触と同じ電気信号を脳に送り、方向転換させる。さらに彼らは、ラットが正しい方向に曲がったときに、脳の快感を司る部分に電気パルスを送るなどの“ご褒美”を与えた。こうして訓練されたロボラットは、難しい障害物コースも難なくクリアできるようになったという。

テクノロジーの進歩が変える人間と動物の関係

 ロボラットは、地雷のありかを知らせたり、がれきの下にいる地震の被災者を発見することが期待されている。あらゆる病気にかかるよう遺伝子を操作された実験用マウスは、人間の病気に対する治療法を見いだし、多くの人命を救うことになるかもしれない。ただし、これらの事例については、人間は多大な恩恵を被る可能性があるものの、動物には何のメリットもない。
 しかし著者は、同様の技術で「動物のため」になることもできると指摘する。たとえばDNA操作によってイヌの遺伝病を軽くできる。これは、人類がこれまで無茶な品種改良で人工的な種を作ってきたことの罪滅ぼしにもなるだろう。
 いずれにせよ、テクノロジーの進歩は人間と動物の関係を大きく変える。倫理的側面を含め、私たちは「命」とどう向き合うのか、本書を読み、改めて考えてみてはどうだろうか。(担当:情報工場 宮﨑雄)

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2016年10月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店