2016年8月の『押さえておきたい良書』
2016年4月に発生した熊本地震は甚大な被害をもたらし、これから復興に向けて皆が力を合わせていかなくてはならない。その復興の道のりを明るく照らしてくれるであろう存在の一つに「天草エアライン」がある。熊本県西、有明海の島々からなる天草市につくられた天草空港を拠点に、現在天草-熊本、天草-福岡、熊本-大阪(伊丹)の3路線を運航する日本一小さな航空会社だ。
2000年に就航した天草エアラインは、現在に至るまで「1機のみ」で3路線を運航している。その機体には可愛いイルカの親子のイラストが描かれ、子どもたちの人気も上々だ。今では観光エアラインとして地域活性化の突出した成功例の一つにも挙げられる同社だが、かつては赤字が常態化し、倒産寸前まで追い込まれていた。本書は、そんな苦況から奥島透前社長のもと大改革を進め「5年連続黒字」にまでV字回復を果たした軌跡を中心に、航空・旅行アナリストが同社の奮闘ぶりを描いている。
現場の中に入っていく新社長
赤字体質に苦しんでいた頃の天草エアラインの社長は、現場を見もせずに、ひたすらコストカットを命ずるのみ。それが社員たちのやる気を奪い、乗客へのサービスを悪化させるという負のスパイラルが生じていた。
その次に社長に就任し改革を主導した奥島透氏の行動はその正反対だった。現場を見るどころか、現場の中に入っていったのだ。
地域航空会社としての“初心”に帰る
天草エアラインの社員たちは、月に1回、部署に関わらず全員が一緒に機体の洗浄を行う。もちろん社長も一緒だ。そんな行事に象徴される全員の“一体感”が改革の原動力になった。社長が社員と同じ仕事をすることで、課題が共有され、問題解決のプロセスも早まった。何より社員が会社に誇りをもてるようになったことが大きかった。
そして、全社員が地域航空会社としての“初心”を見つめ直し、「地元の利用客にとって何が大切か」を考えて行動するようになった。そんな“当たり前”のことが奇跡のV字回復を生んだ。
その後、同社は小山薫堂氏やパラダイス山元氏らのアイデアを取り入れたさまざまなユニークな取り組みで注目されることになる。それらがことごとく成功したのも、奥島氏の改革によって盤石の“一体感”が生まれていたからなのだ。(担当:情報工場 吉川清史)