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2016年8月の『押さえておきたい良書

ヤンキーの虎

地方で手広く稼ぐ成功者たちの実態に迫る

『ヤンキーの虎』
 -新・ジモト経済の支配者たち
藤野 英人 著
東洋経済新報社
2016/04 224p 1,400円(税別)

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 昨今の日本では地方衰退が大きな問題になっている。しかし、地方のすべてが沈んでいるわけではない。地方を舞台にビジネスで成功を収めている経営者たちもいるのだ。
 本書では、彼らや、彼らが経営する企業のことを“ヤンキーの虎”と名づけ、共通する特徴と成功の理由に迫る。その姿からは激変する日本経済のもとで成功するのに必要な姿勢を学ぶことができる。著者の藤野英人氏は、レオスキャピタルワークス代表取締役社長を務めるファンドマネージャー。藤野氏は、出張で全国を回る中でヤンキーの虎の存在を見出した。

 小泉政権の時代に、銀行の債権処理などによって地方経済は荒地と化した。ヤンキーの虎たちは、そこから持ち前のバイタリティと地域ネットワークを駆使して立ち上がったのだという。彼らはシンプルに儲けられる商売なら、飲食、パチンコ、携帯販売など何にでも手を出し、ビジネス拡大に邁進する。
 本書で描かれるヤンキーの虎たちのイメージは、脂ぎったバブル成金とはまったく異なる。若く、行動力にあふれ、常に勉強も欠かさない。地域と社員(=仲間)を大事にする経営スタイルも特徴の一つだ。
 地方には彼らのライバルとなる企業が少ない。多くの経営者は安定志向だからだ。自分が死ぬまでに暮らしに困らない程度に稼ぐというぐらいの意識しかない。そのため、地方の市場はヤンキーの虎たちの独壇場になる。

ヤンキーの虎がつくる「生態系」とは

“ヤンキーの虎は、地域の中で一つの「生態系」をつくっています。生態系とは、いくつかの企業がパートナーシップを組み、お互いの商品、技術、販売、資本を活かしながら、消費者や社会を巻き込んで共存共栄していく仕組みです。
「商圏」とも言えるかもしれませんが、ヤンキーの虎の場合は、それよりももっと深い、地域の文化や企業文化などを含めた「生態系」をつくっている、という表現のほうが正しいと思います。” (p.88より)

 これは著者によるヤンキーの虎のビジネス手法の特色の説明だ。たとえば、あるヤンキーの虎は、自動車販売業と自動車整備工場の両方を経営している。そうすると彼は車の購入時と購入後の両方で同じ顧客をキープできる。そうして自社についた良質な顧客の情報は、他の事業にも応用可能だ。地域密着で様々な事業を展開し、地域のお金を自社の商圏の中ですべて循環させる仕組みをつくる―それがヤンキーの虎が構築する「生態系」ということだ。

“動ける人”だけが成果を出せる時代へ

 積極的なビジネス展開で成長しつづけるヤンキーの虎。しかし彼らを取り巻く環境はこれから厳しくなる。団塊の世代が後期高齢者になる2020年以降は、社会保険料の増加などによる消費の冷え込みが避けられないからだ。これは日本全国で発生する問題だが、地方がうけるダメージは都市部より深刻なものになるだろう。
 だが、だからこそヤンキーの虎たちの“地力”が生きてくると著者はいう。彼らは儲けるためなら積極的にチャレンジすることをいとわない“動ける人”だ。リスクを取って行動を起こせる“虎”たちは、逆境にめげることなく成果を出していけるはずである。(担当:情報工場 宮﨑雄)

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2016年8月のブックレビュー

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