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日本経済新聞電子版 N-BRAND STUDIO

デジタルマーケティングフォーラム(2016年11月29日開催)

対談・パネル討論「ブランディング・CRM・デジタルマーケティングの最前線」

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武井涼子氏(グロービス経営大学院 准教授)
加藤希尊氏(セールスフォース・ドットコム マーケティング本部 マーケティングディレクター)

グロービス武井氏:「マーケティングはマネタイズの仕組みを作ること」

デジタルマーケティングを推進するマーケターにとって、データを活用し「顧客がどこにいて、何を求めているかを知る」ことが欠かせない。『ここからはじめる実践マーケティング入門』を上梓し、「グロービスにおいて、マーケティングとは『売れる仕組み』を作ることと定義している。」と語るグロービス経営大学院 准教授の武井涼子氏が、マーケティング・プランの設計や調査、ブランディング、CRMとデジタルマーケティングの最前線まで、今マーケターがすべきことについて語った。

マーケティングがデジタル化しても、市場機会や売れ筋がどこにあるかを見極める点は変わらない

 一般的にマーケティングにおいてマーケティング戦略を考える際には、いわゆるマーケティング・プロセスを使うこと、また、それを考える際にフレームワークを使って事象を論理的に漏れなく、構造的に捉えることが行われてきた。マーケティング・プロセスとは「セグメンテーション(Segmentation)」「ターゲティング(Targeting)」「ポジショニング(Positioning)」を明らかにし、「誰に、何を、どのように」売るかを考える「STP」でマーケティング戦略を策定し、「商品(Product)」「価格(Price)」「販促(Promotion)」「流通(Place)」の4つの要素からなる「マーケティングミックス」を用いて、実際のマーケティングの実行プランを策定することから構成される。これらを分析する際に利用されるのが、たとえば環境分析で用いられる「顧客(Customer)」「自社(Company)」「競合(Competitor)」の3つの観点から分析を行う「3C分析」などのフレームワークだ。

今までのマーケティング・プランニング

 マーケティングがデジタル化したことで、提供価値は多様化し、ポジショニングは多様化していくものの、この基本的な考え方そのものが大きく変わるわけではない。武井氏は「自社の勝てる土俵をできるだけ多く見つけ、誰に、どんなメッセージを伝えていけばたくさん売れるか、時代が変わり手法や行うべき作業内容はデジタル化で変わるが、マーケターのやるべきことは変わらない」と説明した。

データ活用には仮説が必要。デジタル化によって、仮説検証のための調査は飛躍的に容易に

 マーケティングを行う上で仮説立案は不可欠だ。大きな決断をする際に、ある程度確からしい未来を明らかにすることで、リスクを下げることができるからだ。

 こうした仮説を検証し、不確実性を下げるところにマーケティング・リサーチの意義があるのだが、これまで知りたいことを毎回調査するとなると、その手法は留置調査、電話調査などとなり、コスト的にも時間的にも見合わないことが多かった。

 しかし、次第に、デジタル化によって調査もデジタル化したうえに、調査形式でなくても実データを収集、分析することが容易に行えるようになってきている。つまり、マーケターにとっては「勘と経験と度胸」の時代から、「仮説と検証とデータ」の時代へと変わったといえる。

 たとえば、日経電子版では読者像を明らかにする「日経電子版のビジネスエグゼクティブ調査2016」を実施した。この結果から、以下のようなポイントが明らかになった。

(1)従業員1000人以上の大企業に勤務する割合は、日経電子版読者が30.8%、有料読者では41.8%となり、
   非接触者(10.9%)を大きく上回る。

(2)社外会議、プレゼンの機会が週1回以上ある割合は、日経電子版読者(46.6%)、有料読者(50.6%)、
   非接触者(19.8%)であった。

(3)海外出張時の「ビジネスクラス利用率」では、日経電子版読者(40.5%)、有料読者(45.0%)、
   非接触者(29.5%)という数字を示している。

(4)世帯全体の年収が「1500万円以上」の読者は、日経電子版読者(23.5%)、有料読者(36.4%)、
   非接触者(8.9%)と、日経電子版読者は2割超という結果だった。

(5)「自分の地位や収入、年齢にふさわしい装いを心がけている」読者は、日経電子版読者(60.8%)、
   有料読者(77.4%)、非接触者(41.7%)という割合を示した。

 さらに、ファッションや時計・宝飾品などの高級消費財の購入に際しては、「歴史・品質・企業理念などの情報を確認したい」読者は、日経電子版読者(55.2%)、有料読者(61.2%)、非接触者(33.4%)となっており、「ブランドに敬意を示す思慮深いコンシューマー」の顔も見られる。

 こうした調査を経て、日経電子版読者のペルソナとして、オンビジネスでは「多忙で日本をリードするビジネスパーソン」という顔が、オフビジネスでは「ブランド価値に敬意を示す思慮深いコンシューマー」という顔があるということが見てとれる。

ブランド戦略は、メディア戦略とチャネル戦略の両輪で

 続いて、ブランド戦略だ。武井氏によると、ブランドとは「顧客の頭の中にイメージされた、商品と自分との間にある絆」のことで、顧客の頭の中にあるという点で、「発信側(企業側)に所有権がないもの」と定義できる。

 発信する企業側の想いと、受け取る顧客側の受け取り方が重なり合って作られることから、ブランド戦略には「こういうブランドになりたい」という企業側の意志が不可欠になる。ブランド広告は掲載する媒体の「量」だけでなく「質」に着目することも重要だ。掲載する媒体によって広告主企業のイメージは変わることもあるからだ。

 この点について、たとえば、「2015年日経電子版ユーザー調査」によると、オンライン媒体に掲載している広告主企業に対するイメージについて、日経電子版に掲載された企業は「信頼できる」と回答したユーザーは54.5%、「一流である」と回答したユーザーは30.2%だった。

 武井氏は、「日経の強みの一つに、メディアとしてのブランド力があるため、広告主がそれを活用してブランド戦略に役立てることができる点にある」と指摘した。

 インターネットが購買行動に深く関わるようになり、今の消費者は誰かに勧められた情報を見るというより、自分に関連性の高い情報を能動的に見にいくように変わってきている。何かを購入する際に、事前にインターネットで情報を調べ比較検討することは当たり前で、一般的に、リアル店舗に来店したり、営業マンに会ったりする前に顧客はある程度情報収集や比較検討を完了しているものだ。

 そこで重要なのが、どこで、どうやって、ブランドのメッセージを発信するべきかである。たとえば、メッセージを発信するメディアをパートナーと見れば、日経への出稿を日経との「コブランド戦略」のように活用することも可能だ。武井氏は「日経と何かがコラボすれば、相手先のイメージが日経に多少なりとも近づく。逆もまたしかりだ」と語り、どのメディアにブランドのメッセージを掲載するかという「メディア戦略」や、商品やサービスがどこで手に入るかという「チャネル戦略」もブランド戦略の観点でも考えていくことが重要だと述べた。

デジタル時代のCRMの役割は「顧客の体験全体を管理する役割」に進化する

 セッションのテーマは「CRMの役割」に移っていく。武井氏は、CRMの役割について「顧客にとって必要でもらってうれしい情報を必要なタイミングで知らせてくれること」を挙げた。シェア・オブ・ウォレットを最大化することがCRMの役割だが、最近はそこから一歩進み、ブランドとの関係をより強化するために顧客の体験全体を最適化するために何をするべきかを考えるように変わってきた。

 たとえば、『サザエさん』に登場する三河屋さんは、顧客(サザエさん)を知り、絶妙なタイミングで必要な商品をお勧めすることで、サザエさんの購買経験の価値を高めている。だから、他店よりも少々価格が高かったとしても、三河屋から購入しようという動機づけになっているのだ。さらに、そこに直接の購買には関係ないかもしれないが、タラちゃんをほめるなど、サザエさんが喜ぶ世間話などをすることで、「三河屋さんが来るから、なんか楽しい」という顧客経験を提供している。この購買とは関係ないかもしれないが、うれしい経験の提供も経験価値の提供であり、ブランドとの強い絆を醸成し、クロスセル、アップセルにつながっていくのだ。

 マーケティングのデジタル化により、リアル、バーチャルの両面で「経験価値マーケティング」が行えるようになってきた。デジタル化により、消費者の行動履歴から顧客の状況がリアルタイムに分かるようになった。マーケティング調査もスピーディに、低コストで行えるようになり、これらを組み合わせて分析することで、仮説の検証も、施策に対する効果測定や検証も高速で回せるようになった。

 ただし、これは同時に、提供価値(ポジショニング)の多様化を意味し、多くの顧客インサイトに対応する打ち手を打たなくてはならなくなったことを意味する。マーケティング担当者の負荷は劇的に高まっていくことが予想される。

セールスフォース加藤氏:「カスタマージャーニーマップは、顧客の感情の動きに着目して改善点を洗い出す」

 ここで登壇したのが、セールスフォース・ドットコム マーケティング本部の加藤希尊氏だ。加藤氏は『The Customer Journey 「選ばれるブランド」になる マーケティングの新技法を大解説。』を上梓し、消費者行動の変化を反映したカスタマージャーニーを研究するマーケターだ。

 カスタマージャーニーとは、顧客がブランドや商品を認知、購買、再購入する段階で、ブランドとの接点を行き来する一連のプロセスを「旅」にたとえたものだ。

 加藤氏は、「多くの企業で顧客体験にはギャップが存在する」と、カスタマージャーニーの必要性を述べた。組織やシステムが分断され、データやチャネルがサイロ化した結果、一貫したブランド体験を提供できていない問題がある。このため、ブランドからのコミュニケーションの多くがスパム化してしまうのだ。

 一方、マーケティング施策の投資に対し、大きな成果を出している先進企業では、ビジネス戦略の一環としてカスタマージャーニー戦略を採用、実践していることがわかってきている。

顧客体験のギャップが存在する
マーケティング施策の結果に満足している割合
カスタマージャーニーへの戦略的な取り組みが成果を生む

会社全体で顧客理念を共有することが大事

 カスタマージャーニー戦略を実行する上で、カスタマージャーニーを可視化するためのツールが「カスタマージャーニーマップ」(CJM)だ。これは、認知、購買、再購入といったライフステージごとに、顧客の行動を時系列に洗い出し、感情の動きをマッピングしたものだ。

カスタマージャーニーマップとは?
手書きのジャーニーから、データやテクノロジーを活用したデジタルジャーニーへ

 加藤氏によると、CJMで大事なのは、顧客の「感情」に着目することだ。たとえば、コンタクトレンズを買い替える際には、眼科で検査を受け、ある程度まとまった期間分のコンタクトレンズを購入する。処方箋の期限内であれば、受診なしでレンズを再購入できる。ところが、「処方箋が切れるタイミングをうっかり忘れ、『しまった』という気持ちになることがある。次回購入時に受診した眼科で検査に長い時間待たされると、コンタクトレンズの購入における体験は悪いものになってしまう」と加藤氏は語る。

 こうしたことは、処方箋が切れる前の適切なタイミングで、次回購入のリマインダーを顧客に送れば、ある程度防ぐことができる。

 加藤氏は、顧客体験最適化を「顧客の感情が下がる」ペインポイントから解消するアプローチを推奨する。「マーケティング活動のみで、顧客に快楽を提供するハードルは高いが、苦痛を減らすことは難しくない」からだ。

 武井氏も、「人はプラスの感情に比べ、マイナスの感情を1.5倍に感じるとする論文もある」と語り、「苦痛の改善」による顧客体験最適化の重要性を述べた。

 こうした顧客体験の最適化は、マーケティング部門単独では実現が難しく、全社的に取り組んでいく必要がある。加藤氏は、企業全体で統一された、一貫した顧客体験を提供するために、「トップダウンで定めた顧客理念をもとに、現場が主体的に動く」必要があると述べた。

 武井氏も「顧客経験を包括的に見るための専門組織を作る会社もあるが、失敗するケースが多い」と述べ、顧客体験の最適化は、マーケティングだけでなく、オペレーションを含め企業全体を巻き込んでいくことが重要だと指摘した。

 なお、セールスフォース・ドットコムと日本経済新聞社は、広告配信を最適化するパートナーシップを結び、2017年3月から新たな広告配信サービスを提供開始する。

▽プレスリリース
http://www.salesforce.com/jp/company/news-press/press-releases/2016/11/161129.jsp

 これは、セールスフォースのマーケティングプラットフォーム「Salesforce Marketing Cloud」(Marketing Cloud)と日経IDを連携。日経IDのデータマネジメントプラットフォーム(DMP)を活用することで、企業マーケターは、自社のMarketing Cloudで管理する顧客データと日経ID登録者のマッチングを行い、ターゲットとする消費者を抽出できるようになる。

 これにより、一人ひとりの消費者ニーズに応じて最適な広告を、日経のオンラインメディアに配信することが可能になり、効果の高いコンテンツマーケティングを展開することが可能になる。

購入型クラウドファンディング「未来ショッピング」を発表

NIKKEI STYLE 未来ショッピング
NIKKEI STYLE 未来ショッピング

 最後に、日本経済新聞社のイノベーション創出への取り組みとして、11月24日に発表されたクラウドファンディングサービス「未来ショッピング」が紹介された。

 これは、日本経済新聞社と新東通信、Relicとのパートナーシップによって運営されるもので、「未来ショッピング」に加え、NIKKEI STYLEサイト内に「未来ショッピングチャンネル」を開設。大手企業のテストマーケティングやベンチャー企業のイノベーション、さらには地方に点在する優れた技術や、次代に継承すべき伝統産業技術などの様々なプロジェクトを支援していくものだ。

 日経が独自に審査したプロジェクトに対し、ユーザーは「チケット購入」という形で資金を提供する。まだ世に出ていない面白い商品を、事前に予約購入するショッピングサイトがイメージに近い。

 武井氏も、「日経がやるということで、信頼感が高いというイメージを当初から得ることができる。地方の志を持ったものづくりに、集客面でも寄与できる」と期待を寄せる。

 セッションの総括として、武井氏は、「かつてのマーケティング手法には、主に4大マス媒体の活用しかなかった」と述べた。そうであったから、たとえるなら世界という集合体を「重複せず、漏れなく」(MECEで)理解できた気分になれていたのだ。

 しかし、デジタル化により、あらゆるデータがリアルタイムに取得できる時代になった。これにより、「我々は、全世界を分かっていた気になっていたが、実は何も知らなかったことに気づかされた」と武井氏は語る。

マーケティングは再び大航海時代へ?!

 デジタル化した世界は、より細分化された「クラスター」の集合体だ。全体感を見ることはもはや不可能であることがはっきりしてきた。「MECEの世界からクラスターの世界へ、マーケターは"新たな金脈"を探しに出かけていこう」と武井氏は会場に呼びかけ、セッションを締めくくった。





武井涼子(たけい・りょうこ)氏
グロービス経営大学院 准教授

武井涼子(たけい・りょうこ)氏

東京大学文学部社会学科卒業後、(株)電通に入社、主に自動車会社のコミュニケーション戦略立案を行う。その後、オグルヴィ&メイザー等の広告代理店でブランド戦略、インタラクティブ戦略等を経験。またFIFAマーケティングと大手ベンチャー企業で、スポーツ&マーケティングと経営企画に携わった後、コロンビア大学でMBAを取得。帰国後は、マッキンゼーを経てウォルト・ディズニー・ジャパンに転職、マーケティングと事業開発を行う。現在、准教授、ファカルティ本部主任研究員としてデータ・ドリブン・マーケティングのコース開発などを行う。業務の傍 ら、二期会会員の声楽家としても活躍。




加藤希尊(かとう・みこと)氏
株式会社セールスフォース・ドットコム マーケティング本部 マーケティングディレクター 

加藤希尊(かとう・みこと)氏

広告代理店と広告主、両方の経験を持つプロフェッショナルマーケター。外資系広告代理店(WPPグループ)に12年勤務し、化粧品、自動車、IT など、14業種において100以上のマーケティング施策を展開。
2012年よりセールスフォース・ドットコムに参画し、Salesforce Marketing Cloudの日本ローンチを実現。2014年に国内100社のブランドを対象としたトップマーケターのネットワーク - JAPAN CMO CLUBを宣伝会議とともに立ち上げ、運営。消費者行動の変化を反映した、ブランド毎のカスタマージャーニーを研究し、著書に『The Customer Journey「選ばれるブランドになる」マーケティングの新技法を大解説』がある。